小松直樹 人間・環境学研究科教授、中臺枝里子 医生物学研究所教授、鹿野豊 筑波大学教授らの研究グループは、藤原正澄 岡山大学研究教授、ゾウ ヤジュアン 同助教、仁科勇太 同教授らのグループと共同で、ナノ材料の表面を親水性高分子ポリグリセロールでコーティングすることにより、環境化学や細胞生物学のモデル生物として知られる線虫C. elegans(Caenorhabditis elegans)の体内へのナノ材料蓄積を制御することに成功しました。
ナノ材料は土壌改良や水質浄化に有用な物質として近年盛んに開発されています。一方で、相当量のナノ材料が土壌や海洋河川などに流出し得るため、それらナノ材料の環境および生態系への影響が懸念されています。今回、代表的なナノ材料である酸化鉄ナノ粒子の表面をポリグリセロールという親水性高分子ポリマーにより被覆することで、土壌モデル生物である線虫体内へのナノ材料蓄積を抑制することに成功しました。また、ナノ粒子表面を人為的に正負に帯電させることで蓄積量が変化することも明らかとなりました。このポリグリセロールによる被覆は様々なナノ材料に適用可能なため、将来的に、ナノ材料の環境負荷を下げることが期待されます。また、逆に、線虫などにナノ粒子を蓄積させる技術の基盤ともなるため、効果的な薬剤送達・蓄積技術への展開も期待されます。
本研究成果は、2024年4月20日に、国際学術誌「Chemosphere」にオンライン掲載されました。
「私たちはナノ粒子を線虫体内に届けて、生体内のセンシングを行う研究をしていますが、ナノ粒子が届かないことに困っていました。そこから、逆の発想で、届きにくいナノ粒子の有用性に気づき、今回、環境分野への方向性を示すことができました。」(藤原正澄)
【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.chemosphere.2024.142060
【書誌情報】
Yajuan Zou, Yutaka Shikano, Yuta Nishina, Naoki Komatsu, Eriko Kage-Nakadai, Masazumi Fujiwara (2024). Size, polyglycerol grafting, and net surface charge of iron oxide nanoparticles determine their interaction and toxicity in Caenorhabditis elegans. Chemosphere, 358, 142060.
日刊工業新聞(5月15日 29面)に掲載されました。