河野健一 薬学研究科助教、松崎勝巳 同教授、葛馬佑樹 同修士課程学生(研究当時)、細川健太 同修士課程学生、吉尾航一 同学部生、大杉悠斗 同学部生らの研究グループと、藤原敬宏 高等研究院物質―細胞統合システム拠点(iCeMS)特定准教授、および横山文秋 東京大学特別研究員は、pH制御による細胞外小胞(EV)の新規単離法、Extracellular-Vesicle Catch-and-Release isolation System(EV-CaRiS)を開発しました。
EVは細胞から分泌される負電荷を帯びた直径50–200 nm未満の高度な曲率を有する脂質微粒子であり、重要な遺伝子やタンパク質を内包しているため、生物学的および医学的研究において重要な標的となっています。EV-CaRiSは、溶液のpHに応じて電荷が反転する曲率認識ペプチド(Net-charge Invertible Curvature-sensing peptide: NIC)を用いたEV単離法で、弱酸性pHではペプチドが正電荷を帯びてEVを捕捉し、弱アルカリ性pHでは負電荷に電荷反転することでEVがペプチドから解離し、夾雑物が共存する培地からEVを単離します。3種類のヒト細胞株からEV単離に成功し、既存手法の超遠心分離法と比べても1/3以下の時間で3倍高いEV収量が得られました。単離したEVは元来有する免疫活性や抗がん活性を示すことが確認され、新規EV単離法の有用性を実証できました。この成果からEVの捕捉基板を用いたイメージング技術や内包物の解析技術に応用することが期待されます。
本研究成果は、2024年2月25日に、国際学術誌「Analytical Chemistry」にオンライン掲載されました。
「本研究を遂行するにあたり、多くの方にご協力いただきました。この場を借りて深く感謝申し上げます。研究のコンセプトは、今までに無かった汎用性と簡便性を兼ね備えたEV新規単離法の開発でした。様々な研究グループの努力によってEV単離法は日々進化しています。しかし、使用機器の経済コストや複雑性から手法の汎用性と簡便性を両立することが課題でした。本手法は、超遠心機などのような特殊な実験機器がなくても、一般の研究室が入手可能な試薬や材料だけで誰もがいつでも簡便にEVの単離精製を行えることが最大のポイントです。今後も本技術を活かしてEVの機能解明や応用に向けて研究を展開していきたいと思います。」(河野健一)
【DOI】
https://doi.org/10.1021/acs.analchem.3c03756
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/287216
【書誌情報】
Kenichi Kawano, Yuki Kuzuma, Koichi Yoshio, Kenta Hosokawa, Yuuto Oosugi, Takahiro Fujiwara, Fumiaki Yokoyama, Katsumi Matsuzaki (2024). Extracellular-Vesicle Catch-and-Release Isolation System Using a Net-Charge Invertible Curvature-Sensing Peptide. Analytical Chemistry, 96(9), 3754-3762.