微小核はcGAS自然免疫を活性化しない―定説を覆す成果―

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 我々人間の細胞には、細菌やウイルス由来の核酸に応答する自然免疫機構が備わっています。中でもcGAS/STING応答経路は、自分自身の核酸を含む微小核によっても活性化されることが近年報告され、その影響が注目されていました。しかし、微小核がcGASを活性化する直接的な証拠はほとんどありませんでした。

 林眞理 医学研究科客員准教授(兼:イタリア分子癌研究所(IFOM ETS)グループリーダー)、佐藤裕樹 生命科学研究科博士課程学生らのグループは、染色体融合を持つ細胞核を可視化できる独自のレポーター細胞を開発し、微小核に対するcGAS-STING応答を詳細に解析しました。その結果、これまでの定説に反して、cGASが微小核DNAを認識するのは細胞分裂期中であり、さらにその後STINGは活性化されていないことを発見しました。また、これまで報告されていたcGAS-STING活性化は、細胞質基質に漏れ出したミトコンドリアDNAが原因である可能性が示されました。

 他の細胞種や生物種においても同様のことが成り立つかは今後の解析が必要ですが、その際はミトコンドリアを正常に保つことが重要であることが示されました。微小核による自然免疫応答は細胞老化やがん化抑制等に寄与すると言われていましたが、今回の成果はこれら既存のモデルの再考を促す重要なものとなりました。

 本研究成果は、2024年2月2日に、国際学術誌「Life Science Alliance」にオンライン掲載されました。

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微小核に対するcGAS-STING経路応答モデル
これまでcGASの微小核への凝集はcGAS活性化の指標として扱われていたが、cGAS凝集は必ずしもcGAS活性化を意味しておらず、微小核はcGASに対して不活性であることがわかった。
研究者のコメント

「本研究は当初、これまで広く信じられてきた仮説について、『生細胞を用いて1細胞レベルで確認する』という目的を掲げて始まりました。しかし、思いがけないことに我々の結果は、これまでの仮説の再考を促す結果となりました。学生のうちから、このような刺激的な研究に携わることができたことを感謝するとともに、我々の成果が、細胞生物学分野における『生細胞を用いた研究手法』、『個別の細胞に注視した解析』の必要性を改めて示す契機となれば嬉しく思います。」(佐藤裕樹)

研究者情報
研究者名
林 眞理
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.26508/lsa.202302424

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/286953

【書誌情報】
Yuki Sato, Makoto T Hayashi (2024). Micronucleus is not a potent inducer of the cGAS/STING pathway. Life Science Alliance, 7(4):e202302424.