C型肝炎がほぼ克服された一方で、B型肝炎ウイルス(HBV)の感染を原因としたB型肝炎は依然として世界の人々の健康を脅かしています。とくに近年ではジェノタイプA(欧米に多く分布する遺伝子型)のHBV感染によるB型急性肝炎が国内の大都市部で急速に増加しています。有効なHBV感染抑制策を確立することにより肝炎発症の根本原因に歯止めをかけることが必要です。HBV感染が成立するには、HBV表面のタンパク質(エンベロープタンパク質)とヒト肝細胞膜表面にある感染受容体NTCPが結合することが必須ですが、この両者がどのように分子間相互作用を形成するのかという問題はこれまで明らかにされていませんでした。
野村紀通 医学研究科准教授、野村弥生 同研究員、岩田想 同教授は、大戸梅治 東京大学准教授、浅見仁太 同博士課程学生(研究当時)、清水敏之 同教授、朴三用 横浜市立大学教授、朴在鉉 同研究員、石本直偉士 同博士課程学生、渡士幸一 国立感染症研究所治療薬開発総括研究官、小林ちさ 同研究生(東京理科大学博士課程学生)らとともに、HBVエンベロープタンパク質が感染受容体NTCPと結合する様子をクライオ電子顕微鏡解析により高精度で可視化することに成功しました。この知見により、HBVの感染制御や新しい抗ウイルス薬開発に向けての研究が今後大きく前進すると期待されます。
本研究成果は、2024年1月17日に、国際学術誌「Nature Structural & Molecular Biology」にオンライン掲載されました。
【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41594-023-01191-5
【書誌情報】
Jinta Asami, Jae-Hyun Park, Yayoi Nomura, Chisa Kobayashi, Junki Mifune, Naito Ishimoto, Tomoko Uemura, Kehong Liu, Yumi Sato, Zhikuan Zhang, Masamichi Muramatsu, Takaji Wakita, David Drew, So Iwata, Toshiyuki Shimizu, Koichi Watashi, Sam-Yong Park, Norimichi Nomura, Umeharu Ohto (2024). Structural basis of hepatitis B virus receptor binding. Nature Structural & Molecular Biology.
日刊工業新聞(1月24日 29面)に掲載されました。