市村敦彦 薬学研究科助教、宮崎侑 同博士課程学生(研究当時)、竹島浩 同教授らの研究グループは、小胞体という細胞内小器官に発現する陽イオンチャネルTRIC-Bの遺伝子欠損によって発症する家族性骨形成不全症の症状の1つである低身長の病態生理学的メカニズムを解明しました。
同研究室で2007年に発見されたTRICチャネルは、小胞体に分布する陽イオン透過性チャネルで、小胞体Ca2+放出を補助する機能を担っています。TRICチャネルの2つのサブタイプのうちTRIC-Bの遺伝子変異は家族性骨形成不全症を引き起こします。同研究室では、2016年にTric-b遺伝子欠損によって骨芽細胞機能障害から骨形成不全症の主症状である骨密度低下へ至る分子機序を解明しました。一方で、TRIC-B遺伝子変異による複数の骨形成不全症患者で低身長が症例報告されていますが、その原因は不明でした。
本研究グループは今回、Tric-b遺伝子欠損マウスの軟骨細胞を解析し、発達過程にある骨を構成する成長板軟骨細胞のCa2+シグナル異常から、コラーゲンなどの細胞外基質の分泌が障害されることで骨の伸長が抑制されて低身長へ至ることを明らかにしました。また、Tric-b欠損により低頻度ながら異常な成長板軟骨細胞死が誘導されることを見出しました。本成果は、TRIC-B遺伝子変異や機能不全を原因とした骨形成不全症に伴う低身長や骨伸長障害の診断や治療に貢献することが期待されます。
本研究成果は、2023年12月20日に、国際学術誌「Cell Death and Disease」にオンライン掲載されました。
「Tric-b欠損マウスの成長板軟骨組織に異常な形をした死細胞が観察されるということは2016年の時点で気がついていました。しかし、成長板軟骨細胞での正常な細胞内Ca2+ハンドリングがその時点では分かっていなかったため、先にそれを調べるために大きく回り道し、これまでに2つの別の論文報告を経て、7年をかけ本成果まで到達しました。希少な遺伝病の病態メカニズムの解明にとどまらず、細胞内シグナルが細胞機能をどのように制御しているのか?という根源的疑問に答えるべく今後も粘り強く努力していきます。」(市村敦彦)
【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41419-023-06285-y
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/286465
【書誌情報】
Atsuhiko Ichimura, Yuu Miyazaki, Hiroki Nagatomo, Takaaki Kawabe, Nobuhisa Nakajima, Ga Eun Kim, Masato Tomizawa, Naoki Okamoto, Shinji Komazaki, Sho Kakizawa, Miyuki Nishi, Hiroshi Takeshima (2023). Atypical cell death and insufficient matrix organization in long-bone growth plates from Tric-b-knockout mice. Cell Death & Disease, 14:848.