脳梗塞血管内治療の虚血スコア別費用対効果

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 近年、予後が悪い広範脳梗塞患者にも血管内治療が有効であるとわかり、ガイドラインでも推奨されるようになりました。しかし治療費用は高く後遺症が残る可能性も高いことから、この適応拡大が社会に負担をかけないか懸念されていました。

 今中雄一 医学研究科教授、愼重虎 同特定講師、江頭柊平 同専門職学位課程学生らの研究グループは脳卒中患者の転帰と費用を長期的に推定するモデルを作成しました。一般に本邦の費用対効果分析では、生活の質を考慮した寿命(質調整生存年)1年を生み出すのにかかる費用(増分費用効果比)が500万円以下であれば、費用対効果に優れると判定されます。本研究で推定した血管内治療の増分費用効果比は483万円と費用対効果に優れましたが、この増分費用効果比は虚血領域の程度に大きな影響を受け、極めて大きな脳梗塞(ASPECTSという虚血スコア3点以下)では費用対効果に優れない可能性も示唆されました。医療技術が長期的に社会に及ぼす影響を定量化しただけでなく、同一の医療技術の費用対効果が患者特性により大きく異なることを示した点で意義があります。

 本研究成果は、2023年12月11日に、国際学術誌「Journal of NeuroInterventional Surgery」にオンライン掲載されました。

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研究者のコメント

「私はいまも脳卒中診療に携わる医療者です。治療しても後遺症が残る患者さんを見ていて感じた、つらい時間をむやみに伸ばしていないか、医療費を増やして未来の患者さんに負担を与えていないか、という疑問が本研究の出発点でした。医療に費用対効果の視点を持ち込むことは賛否がありますが、定量化しないとそもそも議論できないので、倫理的という見方もあります。本研究は主に日本の支払者の立場で行いましたが、現実に即したセッティングや費用でモデルを作ったので、研究者や政策決定者はもちろん、同じ悩みを持つ現場の医療者にも手に取られる論文になってほしいと思います。」(江頭柊平)

書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1136/jnis-2023-021068

【書誌情報】
Shuhei Egashira, Jung-ho Shin, Sohei Yoshimura, Masatoshi Koga, Masafumi Ihara, Naoto Kimura, Tatsushi Toda, Yuichi Imanaka (2023). Cost-effectiveness of endovascular therapy for acute stroke with a large ischemic region in Japan: impact of the Alberta Stroke Program Early CT Score on cost-effectiveness. Journal of NeuroInterventional Surgery.