ヒトとは異なり、サルには基本的に閉経はなく、死ぬまで子供を産み続けます。森本直記 理学研究科准教授、川田美風 同助教、富澤佑真 同博士課程学生、西村剛 ヒト行動進化研究センター准教授、兼子明久 同技術職員からなる研究グループは、日本人に馴染み深いニホンザルをCT撮像し、赤ん坊から高齢期まで、出産の要である骨盤の形態変化を詳細に分析しました。その結果、ニホンザルのメスでは骨盤形態がオトナになっても成長期のように変化し続け、高齢になるほど、産道の前後径が約10%大きい、より出産に適した骨盤になることを発見しました。サルは死ぬまで出産を続けられるものの、高齢になるとホルモンバランスの変化などにより出産のリスクが高くなるといわれています。高齢期に至るまで骨盤形態が変化し続けるのは、加齢による出産リスクの上昇を緩和するためだと考えられます。メスが出産のためにオトナになっても身体的な「成長」を続けるという本発見は、成長は繁殖年齢に達した段階で終了するという従来的な生活史観を覆すものです。
閉経のないサルの研究により、閉経のある我々ヒトの進化に関する重要な示唆も得られました。閉経の影響は様々ですが、ヒトでは閉経に伴い女性の骨盤形態が男性化することが知られています。従来、このような骨盤の加齢性変化は、ヒトだけが獲得した性質だと考えられてきました。これに対し本研究は、骨盤が出産に応じて示す加齢性変化がヒト以外にもあることを初めて示しました。閉経の有無という点では異なっていても、骨盤がオトナの間も変化し続けるという点に関しては、ヒトもニホンザルも同じだったのです。ヒトは一見特殊にみえているだけで、骨盤が出産に応じて示す加齢性変化の進化的起源は古く、サル段階で既に獲得されていた可能性を示唆しており、今後さらに深く研究を進める必要があります。
本研究成果は、2023年7月17日に、国際学術誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)」に掲載されました。
「高齢化という言葉には、肉体的には弱くなるという含みがあります。ニホンザルのメスが出産という難題に取り組むため、高齢期に至るまで『成長』を続けていた事は驚きでした。今後さらに、高齢化を霊長類的視点から見直していくことも面白いのではないかと考えています。」 (森本直記)
【DOI】
https://doi.org/10.1073/pnas.2300714120
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/284683
【書誌情報】
Naoki Morimoto, Mikaze Kawada, Yuma Tomizawa, Akihisa Kaneko, Takeshi Nishimura (2023). Pelvic shape change in adult Japanese macaques and implications for childbirth at old age. Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS), 120(30):e2300714120.
東京新聞(TOKYO Web)(2023年9月3日)に掲載されました。