バイオエタノールを電解効率100%で燃焼―バイオと数理の力で拓く生体触媒による2段階カスケード反応―

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 足立大宜 農学研究科博士課程学生(現:同特定研究員)、宋和慶盛 同助教、北隅優希 同助教、白井理 同教授、加納健司 産官学連携本部特任教授、宮田知子 大阪大学特任准教授、牧野文信 同招へい准教授、難波啓一 同特任教授、田中秀明 同准教授らの共同研究グループは、Gluconobacter oxydansという酢酸菌由来のアルコール脱水素酵素(ADH)およびアルデヒド脱水素酵素(ALDH)を用いた高出力かつ高効率な生物電気化学カスケード反応を実現しました。

 ADHとALDHは、酢酸菌の呼吸鎖電子伝達系を構成する酵素で、バイオエタノールをエネルギー変換することが可能な触媒です。両酵素は、電極との直接的な電子移動ができるユニークな特徴を有しており、優れた物質-エネルギー変換(低い副反応リスク・高い電解効率)を実現できます。今回、クライオ電子顕微鏡観察や単粒子像解析を実施し、ADH、ALDHについてそれぞれ2.5 Å(オングストローム)、2.7 Åの分解能で構造解析に成功しました。また、本解析結果に基づき、最適な酵素-電極反応場をデザインし、同一反応場に両酵素を担持するコンセプトによって、エタノール→アセトアルデヒド→酢酸という2段階酸化反応を実現しました。さらに、数理モデルに基づいて本カスケード反応効率を最適化し、電気エネルギーの獲得と酢酸の生産を同時に達成するバイオ燃料電池を構築しました。本電池は、既報の10倍以上の出力に加え、エタノールから酢酸への変換における電解効率が100 ± 4%という卓越した性能を示しました。本研究成果は、生体触媒を用いた新たなバイオエタノール利用技術として、学術的かつ社会的な波及効果が期待されます。

 本研究成果は、2023年5月30日に、国際学術誌「ACS Catalysis」にオンライン掲載されました。

文章を入れてください
アルコール脱水素酵素ADHとアルデヒド脱水素酵素ALDHによる生物電気化学カスケード反応
研究者のコメント

「酸化還元酵素は数万種存在し、多様な生体反応を触媒できるよう数百万年かけて進化してきました。このような自然界の優れた生体材料を利用することで、持続可能な低炭素社会の実現に向けたグリーンイノベーションが加速すると考えています。今後も、大きな学術的かつ社会的インパクトの可能性を秘めた酵素研究を継続し、研究成果の社会実装を目指します。」(足立大宜)

「人類が直面するエネルギー問題に対して、生体模倣技術(バイオミメティクス)が大きなブレイクスルーになると考えています。特に、DET型反応を実現できる酵素に関する基礎研究は、持続的な未来社会を構築する上で、学術的にも社会的にも大きな意義を持ちます。自然が創り出した高度な触媒機能を利活用することで、人類と地球を豊かにする革新的な技術を実現し、研究成果の社会実装に取り組みます。」(宋和慶盛)

書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1021/acscatal.3c01962

【書誌情報】
Taiki Adachi, Tomoko Miyata, Fumiaki Makino, Hideaki Tanaka, Keiichi Namba, Kenji Kano, Keisei Sowa, Yuki Kitazumi, Osamu Shirai (2023). Experimental and Theoretical Insights into Bienzymatic Cascade for Mediatorless Bioelectrochemical Ethanol Oxidation with Alcohol and Aldehyde Dehydrogenases. ACS Catalysis, 13(12), 7955-7965.

メディア掲載情報

日刊工業新聞(6月8日 27面)に掲載されました。