ねじれた座標系で量子周波数ミキシング―核磁気共鳴の感度向上にも―

ターゲット
公開日

 武田和行 理学研究科准教授と王雨 同博士課程学生の研究チームは、核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance:NMR)の新手法として、原子核が持つ磁石(スピン)を、二軸まわりに同時に回転させて、スピン間で情報をやり取りさせる方策を考案し、実験による実証にも成功しました。

 NMRは分子の構造や運動性を調べることが可能な強力な化学分析の手法です。ナノスケールで隣接する二種類の原子核の間で、量子力学的状態を交換させることによって、原子間の距離を測ったり、測定の感度を上げたりすることができます。ただし、情報のやりとりのためには、それぞれの原子核スピンを高周波磁場によって回転させ、原子核スピンのエネルギーの違いを補償してやる必要がありますが、エネルギー差が比較的大きい場合、この補償は困難でした。

 そこで本研究チームは、他方の、エネルギーが高い側の原子核スピンに対して、二重の回転を施す変調高周波磁場を照射しました。回転する座標系の中でさらに別の軸で回転する「ねじれた」座標系の中で、二つの回転による周波数を混合(ミキシング)させてエネルギー差を補償でき、水素原子核と窒素15原子核の間で効率的にスピン状態を交換させることができました。

 本研究成果は、2023年4月17日に、国際学術誌「Physical Chemistry Chemical Physics」にオンライン掲載されました。

文章を入れてください
原子核スピンの二軸まわりの同時回転とスピン状態の軌跡のイメージイラスト
研究者のコメント

「原子核スピンという『磁石』が与えられた環境の中で時事刻々と方向を変えていく様子は、量子力学の運動方程式を積分して計算できます。一方この研究では、磁石の『踊らせ方』を先に決めておいて、運動方程式を微分して、逆にどのような操作をしたら望むように踊ってくれるかを求めて、実際に実行します。結果が役に立つとかはさておき(笑)、純粋に面白いです。」(武田和行)

研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1039/D3CP00755C

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/282832

【書誌情報】
Yu Wang, Kazuyuki Takeda (2023). Double nutation cross-polarization between heteronuclear spins in solids. Physical Chemistry Chemical Physics, 25(20), 13838-13845.

メディア掲載情報

日刊工業新聞(5月11日 25面)に掲載されました。