近年、様々な分野でニューラルネットワークを用いたデータ解析法-いわゆる人工知能(AI)-が盛んに開発・利用されています。これまでに様々なニューラルネットワークが提案され、その計算能力が評価・利用されてきました。しかし、生態系に自然に存在するネットワーク(例えば、食う-食われるといった種間関係)が計算能力を持っているのか、またそれらを我々人間が利用できるのか、については全く研究されてきませんでした。
今回、潮雅之 白眉センター特定准教授(現:香港科技大学助理教授)、渡邉一史 B.Creation株式会社CEO、福田康弘 東北大学助教、徳留勇志 東京大学学術支援専門職員(研究当時)、中嶋浩平 同准教授のグループは、生態系シミュレーションと微生物培養系を用いた実験から、生態系に存在するネットワークが計算能力(情報処理能力)を持ち、我々がその能力を利用しうる、という証拠を見つけました。
本研究で示された「生態系の計算能力」は、これまでに注目されなかった計算資源であり、発展著しいAI技術に新たな方向性を与えるものです。また、高い生物多様性と高い計算能力に関連があることも示唆されており、これまで知られていなかった生物多様性の新たな価値に光を当てるものでもあります。
本研究成果は、2023年4月19日に、国際学術誌「Royal Society Open Science」にオンライン掲載されました。
「これまで、生態系動態の理解や種間相互作用ネットワークの推定といった生態学の研究を行ってきましたが、その過程で感じていた「生態系に対するもやもや感」が何だったのか、この研究を通して一つ理解できました。生態系は巨大な情報処理装置だったのです!恐らくあらゆる生態系で、膨大な情報が超高速かつ省エネルギーで飛び回っているはずです。びっくりです。」(潮雅之)
【DOI】
https://doi.org/10.1098/rsos.221614
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/281765
【書誌情報】
Masayuki Ushio, Kazufumi Watanabe, Yasuhiro Fukuda, Yuji Tokudome, Kohei Nakajima (2023). Computational capability of ecological dynamics. Royal Society Open Science, 10(4):221614.