クビワオオコウモリはほぼ日本の琉球諸島のみで生息しており、主に果実類や花を餌とします。果実と一緒に種も食べるため、種子散布者や花粉媒介者として生態系の維持に重要な役割を果たします。一方で農作物に被害を及ぼすこともあるため、果樹生産者からは害獣と見なされ駆除されています。その他にも野良犬・猫による捕食や生息地の減少などで、クビワオオコウモリは絶滅危機種に指定されるほどに数が減ってしまいました。
しかし、実際にクビワオオコウモリがどのくらい果実に被害を及ぼしているのか、はっきりと分かっていませんでした。そこで、Christian Ernest Vincenot 情報学研究科助教(現:ルクセンブルク大学准教授、兼 島コウモリ調査グループ創設者)、柴田昌三 地球環境学堂教授とWeerach Charerntantanakul 同修士課程学生(研究当時)らの研究チームでは、沖縄本島の北部地域で野生生物がタンカンに及ぼす被害を調査するため、(1)作物被害情報記録、(2)生産者へのアンケート・聞き取り調査、(3)タイムラプスカメラによる撮影の3種類の方法でデータを集め解析しました。
その結果、最も果実に被害を及ぼしていたのはハシブトガラス(全体の53-56%)であり、クビワオオコウモリによる被害は18-28%、台風の来なかった2018年ではさらに低く、わずか2.1%であることが示唆されました。クビワオオコウモリによるタンカン被害の実態、および台風との関連が本研究により初めて明らかにされました。
また、防鳥ネットに絡まって死亡したクビワオオコウモリは10年間で8500羽にも上る可能性があり、絶滅が危惧されるクビワオオコウモリ保護のためにも、生き物を傷つけないネットの張り方や種類の適切な選択、さらには生息地や餌場となる豊かな森林生態系の維持が望まれます。
本研究成果は、2023年4月17日の国際コウモリ感謝の日(International Bat Appreciation Day)に、国際学術誌「Oryx」に掲載されました。
【DOI】
https://doi.org/10.1017/S0030605322000631
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/284448
【書誌情報】
Weerach Charerntantanakul, Shozo Shibata, Christian Ernest Vincenot (2023). Amidst nets and typhoons: conservation implications of bat–farmer conflicts on Okinawa Island. Oryx, 57(4), 467-475.
朝日新聞(4月25日夕刊 8面)に掲載されました。