岩田想 医学研究科教授(理化学研究所グループディレクター)、南後恵理子 理化学研究所チームリーダー(東北大学教授)、登野健介 高輝度光科学研究センターチームリーダーらの国際共同研究グループは、X線自由電子レーザー(XFEL)を用いて、ロドプシンという視覚に関わるタンパク質が光刺激によって1ピコ秒(1兆分の1秒)~100ピコ秒という超高速で変化する過程を、原子の動きまで克明に動画として捉えることに成功しました。
本研究成果は、ヒトの視覚のメカニズムの理解につながるだけでなく、創薬ターゲットとして重要なGタンパク質共役型受容体の活性化機構を理解する上でも重要な知見になると期待できます。
ロドプシンは眼の網膜に存在する膜タンパク質であり、光をキャッチするためのレチナールという共役アルデヒドを含んでいます。ロドプシンは、高感度で光を感受できることから、薄暗い環境において物を見る役割(暗所視)を果たします。光を受けたロドプシンは構造変化を引き起こし、それが細胞内へ信号として伝わり、最終的に“物を見る”ことができます。しかし、ロドプシン内部でのレチナールの変化の詳細は不明でした。
今回、国際共同研究グループは、ロドプシンが光で変化する様子の原子レベルでの動画撮影に成功し、視覚の初期段階におけるメカニズムを解明しました。
本研究成果は、2023年3月22日に、科学雑誌「Nature」のオンライン版に掲載されました。
【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41586-023-05863-6
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/281518
【書誌情報】
Thomas Gruhl, Tobias Weinert, Matthew J. Rodrigues, Christopher J. Milne, Giorgia Ortolani, Karol Nass, Eriko Nango, Saumik Sen, Philip J. M. Johnson, Claudio Cirelli, Antonia Furrer, Sandra Mous, Petr Skopintsev, Daniel James, Florian Dworkowski, Petra Båth, Demet Kekilli, Dmitry Ozerov, Rie Tanaka, Hannah Glover, Camila Bacellar, Steffen Brünle, Cecilia M. Casadei, Azeglio D. Diethelm, Dardan Gashi, Guillaume Gotthard, Ramon Guixà-González, Yasumasa Joti, Victoria Kabanova, Gregor Knopp, Elena Lesca, Pikyee Ma, Isabelle Martiel, Jonas Mühle, Shigeki Owada, Filip Pamula, Daniel Sarabi, Oliver Tejero, Ching-Ju Tsai, Niranjan Varma, Anna Wach, Sébastien Boutet, Kensuke Tono, Przemyslaw Nogly, Xavier Deupi, So Iwata, Richard Neutze, Jörg Standfuss, Gebhard Schertler, Valerie Panneels (2023). Ultrafast structural changes direct the first molecular events of vision. Nature, 615(7954), 939–944.