一般に動植物の感染症において、病原体は明確な「宿主特異性」を示します。しかし、病原体の宿主特異性がどのように成立しているのか、その分子的背景の理解は極めて限定的です。植物感染症の被害の70%以上は、植物病原性の糸状菌(以下、植物病原菌)によって引き起こされています。そして、多くの植物病原菌の宿主特異性の成立には、「エフェクター」と総称される分泌タンパク質群が重要な役割を果たしていると推定されています。エフェクターは病原菌が分泌後、宿主細胞内に移行して、その防御機構などを撹乱することが報告されています。しかし、エフェクターによりどのように植物感染症における宿主特異性が成立するのかは、全くの謎でした。
今回、高野義孝 農学研究科教授、井上喜博 同助教らの研究グループは徳島大学、岡山県農林水産総合センター生物科学研究所の研究者と共同で、植物病原菌(ウリ類炭疽病菌)の宿主特異性成立において重要な役割を果たす4つのエフェクター(EPC1~EPC4)の発見に成功しました。
本研究成果は、2023年3月21日に、国際学術誌「New Phytologist」へオンライン掲載されました。
「植物病原菌の宿主特異性がエフェクターによってどのように形作られているのかという問いは、非常に重要であり、自分たちのグループも長年、この問題に挑戦してきました。しかし、一つの病原菌が数百ものエフェクターのような遺伝子を有するため、そのようなエフェクターを同定できない日々が続き、困難を極めていました。しかし、今回、ついに目的とするエフェクターの同定に成功し、この謎を解くための扉を開くことに成功したと思っています。」(高野義孝)
【DOI】
https://doi.org/10.1111/nph.18790
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/281615
【書誌情報】
Yoshihiro Inoue, Trinh Thi Phuong Vy, Suthitar Singkaravanit-Ogawa, Ru Zhang, Kohji Yamada, Taiki Ogawa, Junya Ishizuka, Yoshihiro Narusaka, Yoshitaka Takano (2023). Selective deployment of virulence effectors correlates with host specificity in a fungal plant pathogen. Selective deployment of virulence effectors correlates with host specificity in a fungal plant pathogen. New Phytologist, 238(4), 1578-1592.