我々は日々、様々な目標の達成を目指して、その途中で思った通りにうまくいかずに「期待外れ」が生じても、それを乗り越えようと努力し続けることができます。小川正晃 医学研究科特定准教授(元生理学研究所)、石野誠也 同特定助教らの研究グループは、その能力を担う脳の仕組みとして、期待外れが生じた直後にドーパミン放出を増やしてそれを乗り越える行動を支えるドーパミン神経細胞を、ラットで発見しました。従来、脳内のドーパミン放出量は、思ったよりもうまくいくと増える一方、期待が外れると減ると考えられていました。しかしこの役割では、期待外れを乗り越える能力は説明できませんでした。本研究成果は、意欲機能に対するドーパミンの新たな役割を解明し、意欲を支える脳の仕組みの常識を変える革新的な成果です。
期待外れを乗り越える能力を支える神経メカニズムが実在するという本成果は、将来的に、意欲の異常が深く関わるうつ病や依存症などの精神・神経疾患の新たな理解や治療法の開発につながることが期待されます。また、生涯を通した主体的な学びや自己啓発などの「高み」を目指す精神的営みに、重要な示唆を与えます。
本研究成果は、2023年3月11日に、国際学術誌「Science Advances」に掲載されました。
「本研究の完成という目標に向け、まさしく「期待外れを乗り越える」必要がある状況が、多々ありました。「途中で諦めてしまっては私たちが見出したドーパミン細胞に対して申し訳ない」という冗談を言いながら、それを乗り越えられるように頑張ってきました。じっくりと年月をかけ、思う存分、納得のいく研究を行える贅沢な環境を与えてくださった、全ての皆様に、深く感謝申し上げます。」(小川正晃)
【DOI】
https://doi.org/10.1126/sciadv.ade5420
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/279875
【書誌情報】
Seiya Ishino, Taisuke Kamada, Gideon A. Sarpong, Julia Kitano, Reo Tsukasa, Hisa Mukohira, Fangmiao Sun, Yulong Li, Kenta Kobayashi, Honda Naoki, Naoya Oishi, Masaaki Ogawa (2023). Dopamine error signal to actively cope with lack of expected reward. Science Advances, 9(10):eade5420.
読売新聞(3月11日夕刊 11面)および産経新聞(3月15日 6面)に掲載されました。
朝日新聞デジタルに掲載されました。