「てんかん」の発生を時間的・空間的にピンポイントで抑える画期的な治療法を開発-世界で初めてサルでの有効性を実証、臨床応用に向け大きく前進-

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 高田昌彦 ヒト行動進化研究センター特任教授、井上謙一 同助教、南本敬史 量子科学技術研究開発機構グループリーダー、宮川尚久 同客員研究員、川嵜圭祐 新潟大学准教授、松尾健 東京都立神経病院医長、鈴木隆文 情報通信研究機構室長らの共同研究グループは、化学遺伝学という手法を利用することで、てんかんの症状が発生した時にのみ神経活動を抑制するオンデマンド治療法を開発し、その有効性をサルモデルで実証することに成功しました。

 てんかんは局所の神経細胞の異常な興奮が脳の広範囲に伝播し、けいれんや意識消失などの発作を引き起こす深刻な病気です。薬物療法や外科手術などの治療法は、時として正常な脳機能を阻害する可能性もあり、てんかん病巣のみに集中し、かつ発作時のみに作動して異常活動を抑えるようなオンデマンド治療が求められていました。

 本研究では、遺伝子操作で導入した人工受容体とそれにのみ作用する人工薬剤を用いて神経活動を操作する化学遺伝学と呼ばれる手法を用いて、てんかんサルモデルにおけるてんかん発作の治療効果を検討しました。サルの一次運動野を仮のてんかん病巣と見立て、薬で異常興奮を引き起こすと、その活動が脳に広く伝わり全身性のてんかんが引き起こされます(前頭葉てんかんサルモデル)。この領域の神経細胞に人工受容体を導入し、薬剤で引き起こしたてんかん発生時に量子科学技術研究開発機構が独自開発した人工薬剤(デスクロロクロザピン;DCZ)を投与すると、わずか数分でてんかんの脳波と症状が抑えられることが確認できました。これまで化学遺伝学技術の脳疾患への治療応用はマウスなど小動物を対象とした研究に限られてきました。今回、ヒトと同じ霊長類で高度に発達した大きな脳をもつサルでその有効性を確認できたことは、今後の臨床応用に向け大きく前進する成果であるといえます。

 本研究成果は、2023年2月28日に、「Nature Communications」のオンライン版に掲載されました。

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本研究の概要図
研究者のコメント

「サルを用いた疾患研究ということで、動物倫理にも配慮しながら実験を行いました。ヒトに近いサルで実際にけいれんが抑えられることを目の当たりにし、この手法の有効性が実感できました。臨床応用に向けた貢献できたことを嬉しく思います。今後も疾患に悩まれる方々の治療法の確立に一歩一歩近づいて行きたいと思います。」

研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41467-023-36642-6

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/279540

【書誌情報】
Naohisa Miyakawa, Yuji Nagai, Yukiko Hori, Koki Mimura, Asumi Orihara, Kei Oyama, Takeshi Matsuo, Ken-ichi Inoue, Takafumi Suzuki, Toshiyuki Hirabayashi, Tetsuya Suhara, Masahiko Takada, Makoto Higuchi, Keisuke Kawasaki, Takafumi Minamimoto (2023). Chemogenetic attenuation of cortical seizures in nonhuman primates. Nature Communications, 14:971.

メディア掲載情報

日刊工業新聞(3月6日 21面)および毎日新聞(3月11日夕刊 7面)に掲載されました。