金子周司 薬学研究科教授、永安一樹 同助教、永井佑茉 同博士課程学生(研究当時)、木坂優里 同学部生らの研究グループは、背側縫線核に存在するセロトニン神経の活性化が、海馬歯状回の神経細胞群のうち快経験時に活性化する一部の神経を選択的に活性化することを明らかにしました。
うつ病は日本を含む世界各国で大きな問題となっている疾患です。セロトニン神経系は抗うつ薬の主要な作用点の一つですが、セロトニン神経伝達の亢進がどのようにしてストレスに対する耐性化をもたらすのかの詳細は不明でした。
研究グループは、背側縫線核セロトニン神経を繰り返し活性化させるとマウスがストレスに対する耐性を獲得すること、またこの際に記憶の中枢である海馬の歯状回という部分において過去の快経験時に活性化した神経細胞が選択的に再活性化されていることを明らかにしました。今回の結果は、セロトニン神経による抗うつ作用の神経機序の一端を解明するものであり、セロトニン神経と海馬の連関制御を通じた抗うつ薬の開発につながることが期待されます。
本研究成果は、2023年2月22日に、国際学術誌「Cell Reports」にオンライン掲載されました。
「セロトニン神経と海馬の連関については古くから研究がなされてきましたが、特定の経験と関連付けられた海馬の細胞群を制御しているというのは意外な発見でした。背景にある機序についてはまだ不明な点が多いので、今後も研究を進めることで、特定の細胞群の制御を可能としているメカニズムについて明らかにしたいと考えています。」(永安一樹)
【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.celrep.2023.112149
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/279525
【書誌情報】
Yuma Nagai, Yuri Kisaka, Kento Nomura, Naoya Nishitani, Chihiro Andoh, Masashi Koda, Hiroyuki Kawai, Kaoru Seiriki, Kazuki Nagayasu, Atsushi Kasai, Hisashi Shirakawa, Takanobu Nakazawa, Hitoshi Hashimoto, Shuji Kaneko (2023). Dorsal raphe serotonergic neurons preferentially reactivate dorsal dentate gyrus cell ensembles associated with positive experience. Cell Reports, 42(3): 112149.