ヨウ化サマリウム(SmI2)は、様々な還元的有機変換反応に用いられる汎用的かつ温和な一電子還元剤です。最近、西林仁昭 東京大学教授らの研究グループは、モリブデン錯体触媒を用いてSmI2を還元剤とした常温常圧での窒素分子と水からのアンモニア合成を達成し(Nature, 2019, 568, 536)、その応用展開に注目が集まっていました。これらの反応系では、有機溶媒中のSmI2錯体に水を添加すると反応性が劇的に向上することが知られていましたが、これまでに溶液中の錯体構造は未解明で、メカニズム研究の障害となってきました。
山本旭 人間・環境学研究科助教、劉学士 同修士課程学生(研究当時)、吉田寿雄 同教授らの研究グループは、西林仁昭 東京大学教授、荒芝和也 同特任研究員、吉澤一成 九州大学教授、許斐明日香 同テクニカルスタッフ、田中宏昌 大同大学教授らとの共同研究により、有機溶媒と水の混合溶液中における不安定なSmI2錯体の構造を大型放射光施設SPring-8でのX線分析により初めて明らかにしました。本成果は、今後用途が広がっていくと予想されるサマリウム錯体の化学の基礎になるものです。
本研究成果は、2023年2月3日に、国際学術誌「Inorganic Chemistry」にオンライン掲載されました。
「この研究では分析が困難な溶液中の錯体構造を大型放射光施設SPring-8でのX線分析を活用し明らかにしました。錯体化学、理論計算、X線分析の専門家が協力することで達成できたと思います。X線吸収分光の長所を上手く活用できた例でもあると感じています。私自身は固体材料を主に扱っていますが、ここをスタートにその場分析で錯体化学にも貢献していければと思います。」(山本旭)
【DOI】
https://doi.org/10.1021/acs.inorgchem.2c03752
【書誌事項】
Akira Yamamoto, Xueshi Liu, Kazuya Arashiba, Asuka Konomi, Hiromasa Tanaka, Kazunari Yoshizawa, Yoshiaki Nishibayashi, Hisao Yoshida (2023). Coordination Structure of Samarium Diiodide in a Tetrahydrofuran–Water Mixture. Inorganic Chemistry, 62(14), 5348–5356.