動物が成長期に摂取する栄養は、器官の形成に大きな影響を与えます。しかし、どのような栄養素が、神経細胞の成長にどのような影響を与えるかについてはほとんど分かっていません。
金岡泰哲 生命科学研究科研究員、上村匡 同教授、服部佑佳子 同助教らの研究グループは、この問いに取り組むため、低栄養条件下でのショウジョウバエ幼虫の感覚神経細胞を用いて研究を行いました。その結果、ビタミンB群・ミネラル・コレステロールの複合的な不足に応じて、筋肉からシグナル伝達タンパク質Wingless(Wg)が分泌され、Wgが神経細胞に作用することで神経突起の分岐・伸長を促進することを明らかにしました。すなわち、個体の成長にとって不利な低栄養条件において、感覚神経細胞は逆に成長する仕組みを備えていることがわかりました。さらに、本研究で見出した低栄養条件下において神経細胞を成長させる機構は、個体の生存を危うくする環境刺激に暴露されるリスクをいとわずに、食物の探索行動を続けることに寄与している可能性が示唆されました。
本研究で機能を明らかにしたタンパク質は、我々哺乳動物を含む広範な種が共通して持っています。本研究の成果は、今後、他の動物種における栄養と神経発達を結ぶ分子メカニズムを解明する足がかりとなることが期待されます。
本研究成果は、2023年1月17日に、国際学術誌「eLife」にオンライン掲載されました。
研究者のコメント
「栄養素は多数あり、量や組み合わせも考えると実に多様な条件を検討する必要があるため、どの栄養素が神経発達に影響を与えるのかを突き止めるのに苦労しました。私たち生き物の体の中で、栄養素が作用する仕組みには不明な点が多く残されています。今後も、栄養と個体の成長や行動との関係について研究し、食と健康をつなぐ分子基盤の理解に貢献したいと思います。」(金岡泰哲、上村匡、服部佑佳子)
【DOI】
https://doi.org/10.7554/eLife.79461
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/278855
【書誌情報】
Yasutetsu Kanaoka, Koun Onodera, Kaori Watanabe, Yusaku Hayashi, Tadao Usui, Tadashi Uemura, Yukako Hattori (2023). Inter-organ Wingless/Ror/Akt signaling regulates nutrient-dependent hyperarborization of somatosensory neurons. eLife, 12:e79461.