陸上に進出した植物(陸上植物)の表皮には「気孔」とよばれるガス交換のための孔(あな)がありますが、コケ植物タイ類は気孔をもっていません。
守屋健太 理学研究科博士後期課程学生、嶋田知生 同講師、河内孝之 生命科学研究科教授、白川一 奈良先端科学技術大学院大学助教、Justin Goodrich エディンバラ大学教授、西浜竜一 東京理科大学教授らの研究グループは、リヨン高等師範学校、静岡県立大学、甲南大学と共同で、タイ類のもつ気孔形成関連因子の役割を世界で初めて明らかにしました。
タイ類は進化の過程で気孔を失っているので、気孔形成因子も失っていると考えられてきました。今回、タイ類のモデル植物であるゼニゴケのゲノムに2つの気孔形成因子の相同遺伝子が存在することを発見しました(MpSETAおよびMpICE2と命名)。分子遺伝学的な解析の結果、MpSETAとMpICE2はコケ植物特有の組織である「蒴柄(さくへい)」という、気孔とは形も生理学的な機能も異なる組織に特異的に発現し、蒴柄細胞の分裂および分化を制御することを明らかにしました。本研究により、これまで全く想定されていなかった、気孔と蒴柄の発生メカニズムが共通するという可能性が見出されました。
本研究成果は、2023年1月20日に、国際学術誌「Nature Plants」にオンライン掲載されました。
研究者のコメント
「『気孔の無い植物における気孔関連因子の役割は何か?』をスローガンに始めた研究ですが、その意外な機能に迫ることができたのは嬉しいかぎりです。コケ植物と花の咲く植物は進化的に4億年以上前に分岐した植物たちですが、それでもゼニゴケの遺伝子を顕花植物シロイヌナズナに導入すると、部分的ながら気孔を作る機能が残っていたのは驚きです。これからも、あっと驚く意外な研究をしていきたいです。」(嶋田知生)
【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41477-022-01325-5
【書誌事項】
Kenta C. Moriya, Makoto Shirakawa, Jeanne Loue-Manifel, Yoriko Matsuda, Yen-Ting Lu, Kentaro Tamura, Yoshito Oka, Tomonao Matsushita, Ikuko Hara-Nishimura, Gwyneth Ingram, Ryuichi Nishihama, Justin Goodrich, Takayuki Kohchi, Tomoo Shimada (2023). Stomatal regulators are co-opted for seta development in the astomatous liverwort Marchantia polymorpha. Nature Plants, 9(2), 302–314.