片平正人 エネルギー理工学研究所教授、永田崇 同准教授、山置佑大 同助教らの研究グループは、核酸の塩基対のダイナミクスが、ヒト生細胞中においては試験管中とは異なることを見出しました。
ヒトの生細胞中にはタンパク質、核酸等が1L当たり400gも詰まっており、とても混み合っています。一方、通常の実験は試験管中の希薄な水溶液下で行われるため、生体分子本来の挙動を見誤ってしまう恐れがあります。本研究では生細胞中の核酸のNMRシグナルを直接観測するインセルNMR法によって、生細胞中における核酸のダイナミクスに光を当てました。その結果、核酸の塩基対は、ヒト生細胞中においては試験管中よりも頻繁に開くことを見出しました。タンパク質との非特異的な相互作用がこの原因であることも分かりました。
核酸の塩基対が頻繁に開くことは、遺伝子の発現、ひいては様々な生命現象に影響を与えている可能性があります。またこのことは、RNAワクチン等の核酸医薬を開発する際にも考慮すべき新知見です。
本研究成果は、2022年11月29日に、国際学術誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載されました。
研究者のコメント
「インセルNMR法は、生きた細胞中における生体分子の構造・ダイナミクス・相互作用を分子・原子レベルの分解能でリアルタイムに解析できる優れた方法論だと思います。私は核酸分子に愛着を持っており、研究者人口がより多いタンパク質においては得られていない新しい知見を、核酸に関して本法によって獲得したいと思ってきました。今回それが達成されたことを、うれしく思っています。」(片平正人)
【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41467-022-34822-4
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/277589
【書誌情報】
Yudai Yamaoki, Takashi Nagata, Keiko Kondo, Tomoki Sakamoto, Shohei Takami, Masato Katahira (2022). Shedding light on the base-pair opening dynamics of nucleic acids in living human cells. Nature Communications, 13:7143.