神経芽腫は、小児で脳腫瘍に次に多い固形のがんです。治癒率が低く、治療の副作用が強いことから、新たな治療戦略が求められます。
滝田順子 医学研究科教授、渡邉健太郎 東京大学助教らの共同研究グループは、神経芽腫のがん細胞のDNAメチル化解析により、既存の治療の効果が期待しづらい超予後不良群を抽出できる可能性を示しました。さらにこの超予後不良群の特徴をRNAシークエンスとの統合解析により調べ、がん細胞に特徴的な栄養の利用様式により生存と増殖を有利にする方法である「がん代謝」の性質に着目することで、これを逆用する新規治療の可能性を細胞実験と動物実験により示しました。
本研究は、抗がん剤の効果が期待しづらい患者さんを見つけ、がん細胞の特性を逆用し従来とは異なるアプローチによる治療を行うことで、神経芽腫の治癒率の向上と副作用の低減を実現する可能性を示すものです。今後は実際の患者さんの長期生存率や生活の質を向上させるため、臨床応用に向けた研究の推進を行います。
本研究成果は、2022年11月1日に、国際学術誌「Oncogene」にオンライン掲載されました。
研究者のコメント
「神経芽腫は今でも治療が難しい病気です。このため、効果が高く、副作用の少ない新しい治療が求められてきました。本研究の成果を発展させることで、従来の治療で治癒が望みづらい患者さんを早期に見極めるとともに、そのような患者さんに対して新たな治療の可能性という希望をもたらし、さらに副作用や長期合併症を減らすことで、将来にわたり患者さんやご家族の生活の質を高めることが期待されます。」(滝田順子)
【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41388-022-02489-2
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/277224
【書誌情報】
Kentaro Watanabe, Shunsuke Kimura, Masafumi Seki, Tomoya Isobe, Yasuo Kubota, Masahiro Sekiguchi, Aiko Sato-Otsubo, Mitsuteru Hiwatari, Motohiro Kato, Akira Oka, Katsuyoshi Koh, Yusuke Sato, Hiroko Tanaka, Satoru Miyano, Tomoko Kawai, Kenichiro Hata, Hiroo Ueno, Yasuhito Nannya, Hiromichi Suzuki, Kenichi Yoshida, Yoichi Fujii, Genta Nagae, Hiroyuki Aburatani, Seishi Ogawa, Junko Takita (2022). Identification of the ultrahigh-risk subgroup in neuroblastoma cases through DNA methylation analysis and its treatment exploiting cancer metabolism. Oncogene, 41(46), 4994-5007.
京都新聞(11月2日 25面)および読売新聞(11月8日夕刊 8面)に掲載されました。