ダイナミックプライシングとは様々な要因によって需要と供給のバランスが変化する時に、商品・サービスの価格を柔軟に変える「変動価格制」のことで、価格変更のタイミングの適切性や、変更価格が需供バランスにどの様な影響を与えているかが可視化できるなど、社会にとって利活用しやすいようなツールの開発が待たれていました。
梅野健 情報学研究科教授、新谷健 同博士課程学生(現:フォルシア株式会社)らの研究グループは、フォルシア株式会社とのダイナミックプライシングに関わる共同研究において、2022年7月21日に特許を取得しました。
梅野教授は、2018年10月からフォルシア株式会社とダイナミックプライシング技術に関わる共同研究を開始し、ホテル、レンタカー、美容院などの実データの価格の分析に取り組み、プライシングの実証実験の解析とその評価分析を共同で取り組んで来ました。
今回の特許は、例えば「ブッキングカーブ(予約曲線)は普遍的に指数則に従う」など、これらの業界横断型の実証実験の実データに基づく分析から得た新しい知見から得られたものであり、「需要予測システム、価格決定システム、情報処理システムおよびコンピュータプログラム」として共同特許申請・取得に至ったものです。
研究者のコメント
「天気は毎日変わります。晴れの日と雨の日で人間の行動パターンが明らかに違う様に、サービス、物の対価も時間と共に変わっても良いのではというのはまさにコペルニクス的転回です。更に最近の感染状況が日々変化する中、価格しか需給をコントロールできない状況の中では、このダイナミックプライシングの導入は必然の流れと言って良いでしょう。ただ、どの様に価格を変えるのか?あるいはその価格変更のタイミングは適切なのかというという天体の運動におけるケプラーの法則の様な何らかの基準(法則)が必要で、それを示す理論が必要不可欠だと考えておりました。本研究は、社会人博士課程学生として研究に主体的に関わった新谷健(フォルシア株式会社)の提案から始まりました。提案を受けた時、社会的に必要な技術・理論の割には研究としてはほとんどされていない分野だと考え、やる価値があると判断し、産学連携の共同研究がスタートしました。ただ、本研究は実際にやってみると苦難の連続でした。実際に、価格と予約に関わる実データをホテル等から提供いただく際は、何故このデータを渡さないといけないのか、という辛辣なコメントと共に提供いただいたこともあります。本研究は、その貴重な実データの解析の中で導いた結果であり、本共同研究のために、データを快く提供いただいた全ての機関(大和リゾートさんを含むホテル運営企業、レンタカー、旅行業者、美容院)にこの場を借りて感謝いたします。またあるホテルでの実証実験では、力のあると定評のあるプライシングマネージャーとの勝負をする機会を得ましたが、我々は常敗でした。が、その失敗の経験からあること、つまりそのプライシングマネージャーは持っていて我々が持っていなかった本質的な情報が鍵であることに気づきました。それが、我々が失敗の挫折感から、本発明の意義(本質的な価値はある)への確信を持つに至ったターニングポイントとなります。今回、無事特許が認められて本当に良かったです。他にも、共同研究先から提供した美容院のデータを丹念に調べてある普遍的な事実を発見した工学部情報学科の学生松本亮(当時)の貢献(工学部情報学科2021年7月に卒業論文としてまとめる)も見過ごすことはできません。このダイナミックプライシングアルゴリズムおよびその理論はまだ生まれたばかりですが、今後、社会にあるダイナミックプライシングが社会的に受容される過程で、ブラックボックスとして価格変動制が導入されるのではなく、どの程度価格が正しいのかあるいは価格変更のタイミングが正しいのか可視化できる本アルゴリズムは、今後の社会的ニーズに叶うと考えます。」(梅野健)
【DOI】
https://doi.org/10.14495/jsiaml.14.49
【書誌情報】
Masaru Shintani, Ken Umeno (2022). General dynamic pricing algorithms based on universal exponential booking curves. JSIAM Letters, 14, 49-52.