卵子や精子といった生殖細胞は、減数分裂と呼ばれる特殊な細胞分裂によって作られます。減数分裂を制御するタンパク質に不具合が生じると、正常な卵子や精子を作ることができません。人間の場合、減数分裂における不具合は不妊、流産などの問題や、染色体数異常につながります。現代社会では適齢期夫婦の約20%が不妊問題を抱えていると言われており、減数分裂の原理の理解は、社会的にも喫緊の課題です。
Heyun Guo 生命科学研究科博士課程学生、佐藤-カールトン綾 同博士研究員、島添將誠 理学部学生(現:総合研究大学院大学修士課程学生)、Xuan Li 同技術員、Peter Carlton 同准教授らの研究グループは、DSB-1と呼ばれるタンパク質のリン酸化量が調節されることにより、DSB-1タンパク質の活性が調節されることで正常な生殖細胞が作られることを明らかにしました。DSB-1タンパク質の活性は、大きすぎても小さすぎても生殖細胞には有害になるため、活性を中庸に維持することが重要であると推測されてきましたが、この分子メカニズムはこれまで不明でした。研究グループは、今回、DSB-1タンパク質の活性は、リン酸化の有無がスイッチになっており、対立する二つの酵素、PP4脱リン酸化酵素と、ATRリン酸化酵素が、バランスをとりながらリン酸化量を制御し、DSB-1活性を中庸に維持することで、正常な生殖細胞が作られることを明らかにしました。
DSB-1は、減数分裂に必須の染色体構造を作る際に働くと考えられますが、今後は、DSB-1がDNAに作用するメカニズムを明らかにしていきたいと考えています。
本研究成果は、2022年6月27日に、学術誌「eLife」にオンライン掲載されました。
研究者のコメント
「線虫は、成虫における体内の細胞の約半分を卵母細胞が占めるほど、生殖細胞を沢山つくる生物であり、減数分裂前期のタンパク質の挙動を解析するための、非常に有用なモデル生物です。生殖細胞の前駆体となる細胞は、シャーレなど体外の環境で培養することが比較的難しいため、減数分裂のメカニズムには、まだまだ基本的な原理さえ謎に包まれている点が多く残されています。私たちは、遺伝学的な操作が容易である線虫をツールとして、ヒトまで保存されたタンパク質が働く経路を明らかにし、生物間で共通してみられる、減数分裂の普遍的なメカニズムを理解することを目指しています。」(Peter Carlton, 佐藤-カールトン綾)
【DOI】
https://doi.org/10.7554/eLife.77956
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/275531
【書誌情報】
Heyun Guo, Ericca L Stamper, Aya Sato-Carlton, Masa A Shimazoe, Xuan Li, Liangyu Zhang, Lewis Stevens, KC Jacky Tam, Abby F Dernburg, Peter M Carlton (2022). Phosphoregulation of DSB-1 mediates control of meiotic double-strand break activity. eLife, 11:e77956.