塚本博丈 医学研究科特定准教授らの研究グループは、免疫チェックポイント阻害療法に伴う有害事象(免疫関連有害事象(irAE))の発現に関わる免疫応答の誘導メカニズムの一端を明らかにしました。
PD-(L)1阻害療法をはじめとした、がんを攻撃する免疫応答を(再)活性化するがん免疫療法は、現在ではがん治療の新たな選択肢として確立されました。その一方で、この治療により生じる正常自己臓器への傷害の原因となる免疫応答は未だ明らかではありません。本研究では、老齢担がんマウスに対してPD-1阻害療法を施行した際に、若い担がんマウスでは観察されなかったPD-1阻害療法に伴う臓器傷害が起こることを見出し、傷害臓器では特にT細胞、B細胞にて構成される異所性リンパ組織の形成と、免疫グロブリン(抗体)の沈着が起こることを発見しました。この傷害臓器の異所性リンパの形成には、IL-21産生性CD4T細胞、B細胞遊走因子CXCL13の活性化が必要不可欠である一方、がんに対する免疫応答に関わるIFN-γの活性化は必ずしも必要ないことが示唆されました。がん患者においても、CXCL13は免疫関連有害事象の発症と相関する可能性があり、CXCL13および自己抗体産生をirAE発症の予測マーカーや、病態改善の標的として応用することが期待されます。
本研究成果は、2022年7月11日に、科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America; PNAS」のオンライン版に掲載されました。
研究者のコメント
「「老化」と「がん免疫療法による免疫反応」という観点から研究を進める過程で、本成果を見出すことができました。PD-1阻害療法に伴う肺臓炎など、特定のirAE病型はがん患者の年齢と相関するという報告もあり、引き続き、個体老化による免疫応答の変容について着目して研究を継続していきたいと思います。」(塚本博丈)
【DOI】
https://doi.org/10.1073/pnas.2205378119
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/274899
【書誌情報】
Hirotake Tsukamoto, Yoshihiro Komohara, Yusuke Tomita, Yuji Miura, Takanobu Motoshima, Kosuke Imamura, Toshiki Kimura, Tokunori Ikeda, Yukio Fujiwara, Hiromu Yano, Tomomi Kamba, Takuro Sakagami, Hiroyuki Oshiumi (2022). Aging-associated and CD4 T-cell–dependent ectopic CXCL13 activation predisposes to anti–PD-1 therapy-induced adverse events. Proceedings of the National Academy of Sciences, 119(29):e2205378119.