山﨑真紀子 医学部附属病院臨床検査技師、新井康之 同助教と、髙折晃史 医学研究科教授、足立壯一 同教授らの研究グループは、同院血液内科にてキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法として、チサゲンレクルユーセル(tisagenlecleucel, tisa-cel)を投与されたびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)25例を対象に、リンパ球除去化学療法前、CAR-T細胞投与3日後、13日後での凝固線溶系マーカーの変動を解析しました。その結果、リンパ球除去前と比較し、サイトカイン放出症候群(CRS)発症初期(3日後)においては、炎症マーカーに加えて、線溶抑制マーカーであるPAI-1(total PAI-1)が約2倍という有意な上昇を示しました。同時に凝固活性化マーカーも上昇を認めたことから、CRS発症初期においては、PAI-1上昇による線溶抑制と、それによる相対的な凝固亢進状態にあり、血栓の本体となるフィブリンの生成が増加していることが分かりました。CRSが沈静化した投与13日後には、total PAI-1も化学療法前の値まで低下しており、線溶抑制状態が解消し、フィブリンの分解が分解されていることが示唆されました。
CAR-T療法においてはCRSがほぼ不可避であり、それによる凝固障害や血栓症、血管内皮障害の発症が課題となっていますが、このCRS関連凝固障害は、原因や病態が十分解明されていません。今回の研究成果により、CAR-T療法患者における凝固線溶マーカー測定の重要性が再認識され、凝固障害の原因解明の一助となることが期待されます。
本研究成果は、2022年5月17日に、血液学会の国際学術誌「Blood Advances」にオンライン掲載されました。
研究者のコメント
CAR-T療法は、再発・難治性のリンパ性造血器疾患に対する最有力な次世代治療法ですが、CAR-T細胞投与によるサイトカイン放出症候群に起因する随伴症状が、治療の課題となっています。特に、CRS関連凝固障害は、全身に影響が及び、集中的な輸血療法や血漿交換療法が必要となる場合もあります。ALLに関しては凝固障害に関する研究が進んでおりますが、DLBCLにおいては頻度や病態がいまだ不明な点が多くありました。今回、tisa-celを投与されたDLBCLの患者さんの凝固線溶マーカー等を解析することで、CAR-T投与後の凝固線溶マーカーの詳細な動きを観察することができました。本研究結果が、CRS関連凝固障害の原因や病態解明の一助となり、最終的には本疾患の治療成績向上につながることを期待しています。(山﨑真紀子、新井康之)
【DOI】
https://doi.org/10.1182/bloodadvances.2022007454
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/275429
【書誌情報】
Makiko Yamasaki-Morita, Yasuyuki Arai, Takashi Ishihara, Tomoko Onishi, Hanako Shimo, Kayoko Nakanishi, Yukiko Nishiyama, Tomoyasu Jo, Hidefumi Hiramatsu, Takaya Mitsuyoshi, Chisaki Mizumoto, Junya Kanda, Momoko Nishikori, Toshio Kitawaki, Keiji Nogami, Akifumi Takaori-Kondo, Miki Nagao, Souichi Adachi (2022). Relative hypercoagulation induced by suppressed fibrinolysis after tisagenlecleucel infusion in malignant lymphoma. Blood Advances, 6(14), 4216–4223.