原子炉からの微弱な放射性ガス拡散の動画撮像に成功―放射能拡散のオンライン可視化に成功―

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 谷森達 理学研究科教授(現:名誉教授)、高田淳史 同助教らの研究グループは、2017年に世界初の放射線の3成分の1つであるガンマ線の完全可視化技術を開発し、Cs汚染のガンマ線撮像を公表しました(2017年2月3日)。2022年には、銀河中心拡散ガンマ線を世界で初めて直接検出することに成功したことも国際学術誌で発表しています。また同技術の社会貢献として「放射線施設の画像線量モニタリング技術」を開発しました。廃炉工事による放射性物質飛散の初期段階での検知に利活用することを目指しています。
 その試験として、今回、駆動中の小型原子炉において、法令基準よりもはるかに微量な放射性ガスの流出の動画検出に成功しました。従来の定点測定では検出不可能な微弱な放射性ガスの流出を放射場所、拡散変化を動画として検出し、今まで不可能だった原子力施設の微弱な異常をオンラインイメージングで検出、AI等の判断技術と合わせ、異常初期段階での発見と対応を可能にする技術であることを実証しました。原子炉建屋外で同様な画像モニタリングが可能であり、原子炉からの放射性物質の流出を可視化し、迅速な異常の検知、迅速な対応と災害予測を実現できる可能性が出てきました。

 本研究成果は、2022年3月16日に行われた、日本物理学会 77回年次大会で報告しました。

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2021年12月16日午前10時前後における、アルゴン41(放射性同位体)1.29百万電子ボルトの放射線の空間分布の時間変化。10時15分に最高値(瞬間でも法令の5分の1以下、測定時間平均では約100分の1)、実際は7分間隔で画像がある。測定線量は原子炉建屋内線量の100分の1の小さい変動でしかない。今までは測定環境と同程度の変動しか画像化できなかった。

Ar-41 の拡散状況をイメージング
2021年12月16日午前10時前後における、アルゴン41(放射性同位体)1.29百万電子ボルトの放射線の空間分布の時間変化。10時15分に最高値(瞬間でも法令の5分の1以下、測定時間平均では約100分の1)、実際は7分間隔で画像がある。

研究者のコメント

「いわゆる放射能の“ガンマ線”測定では、検出効率が高い“重元素”の使用が鉄則です。しかし核ガンマ線の方向を決定するには微弱な反跳電子の方向測定が不可欠で、重元素では不可能です。我々はこの鉄則をやぶり対極の“希薄なガス”を用いることでこの問題をクリアしました。まさしく”逆転の発想“です。しかし、長らく専門家にはこの手法を受け入れてもらえず、1研究室で約20年間、学生、研究員と共に頑張ってきました。予算獲得にも苦労し、宇宙以外にも、この手法が有用と考えられる医療や環境にもャレンジを行い、ここまで研究を継続できました。しかし「捨てる神あれば拾う神あり」で、医療などで鮮明な画像が出ると大変評価していただき、大きな励みにもなりました。」(谷森達)