光合成は光エネルギーを利用して生きていくことができるため便利だろうと考えられていますが、実際には進化の過程で光合成を止(や)めた「元」植物や「元」藻類が数多く生息しています。また、それらの多くは光合成をしない葉緑体を維持したままです。
神川龍馬 農学研究科准教授、中山卓郎 筑波大学助教、谷藤吾朗 国立科学博物館研究主幹、中村保一 国立遺伝学研究所教授らの研究グループは、地球全体の光合成の約20%に貢献すると言われる珪藻の中で、光合成を止めた種の全ゲノム解読に成功しました。この種は光合成をしない代わりに環境中に溶存する栄養分を吸収して生育していますが、その詳細なメカニズムはわかっていませんでした。本研究では全ゲノム解読に加え、機能している遺伝子を網羅的に検出するトランスクリプトーム解析や生化学実験などを用いた多角的な研究により、本種が光合成を止めた後も葉緑体での物質生産を維持しつつ、周りの養分を効率よく獲得するための能力を増大させていることが明らかとなりました。これは一般的な植物や藻類とも、そして動物とも異なる能力をもつことを意味します。光合成を止めた本種の全ゲノム解読は地球上で起きてきた生物進化の一面を解き明かすとともに、生物にとって光合成とは何かをひも解く鍵となることが期待されます。
本研究成果は、2022年4月29日に、国際学術誌「Science Advances」にオンライン掲載されました。
【DOI】
https://doi.org/10.1126/sciadv.abi5075
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/269540
【書誌情報】
Ryoma Kamikawa, Takako Mochizuki, Mika Sakamoto, Yasuhiro Tanizawa, Takuro Nakayama, Ryo Onuma, Ugo Cenci, Daniel Moog, Samuel Speak, Krisztina Sarkozi, Andrew Toseland, Cock van Oosterhout, Kaori Oyama, Misako Kato, Keitaro Kume, Motoki Kayama, Tomonori Azuma, Ken-ichiro Ishii, Hideaki Miyashita, Bernard Henrissat, Vincent Lombard, Joe Win, Sophien Kamoun, Yuichiro Kashiyama, Shigeki Mayama, Shin-ya Miyagishima, Goro Tanifuji, Thomas Mock, Yasukazu Nakamura (2022). Genome evolution of a nonparasitic secondary heterotroph, the diatom Nitzschia putrida. Science Advances, 8(17):eabi5075.