金城克樹 理学研究科博士課程学生、真砂全宏 同博士課程学生(現:島根大学助教)、毛志強 同博士研究員(現:ペンシルベニア州立大教授)、北川俊作 同助教、米澤進吾 同准教授、前野悦輝 同教授(現:高等研究院 豊田理研‐京大連携拠点教授)、石田憲二 同教授の研究グループは、約60年前に理論研究から予言されていた空間変調する新奇な超伝導状態を酸化物超伝導体で発見しました。
低温で電気抵抗が完全にゼロになる超伝導状態は、磁場をかけると壊れます。壊れる寸前に一様ではない新奇な超伝導状態が現れうることが、約60年前に理論的に予言されていました。この新奇な超伝導状態は提案した4人の名前にちなんでFFLO超伝導状態として知られ、超伝導の強さがスメクティック液晶での棒状分子の分布のように空間的に周期変化します。この概念は超伝導研究にとどまらず、レーザー冷却原子気体や高密度クォーク物質といった異なるエネルギースケールの物理にも現れます。ところが現在まで候補となる超伝導体は見つかっているものの、FFLO超伝導状態の直接的証拠となる超伝導の強さの空間変調を見ることは出来ていませんでした。
本研究グループは、ルテニウム酸化物超伝導体Sr2RuO4の純良単結晶においてFFLO超伝導状態に特徴的な空間変調(スピン・スメクティック性)を、超伝導の壊れる寸前の磁場領域で核磁気共鳴(NMR)測定により明らかにしました。さらに、これまでの候補物質のFFLO超伝導状態は10 テスラ(T)を超える高磁場でしか報告されていませんでしたが、驚くべきことにSr2RuO4では1.3 Tと一桁低い磁場で実現しており、今後は様々な測定が可能となります。Sr2RuO4はこの新奇な超伝導状態を研究する最適な研究舞台となり、今後の研究が飛躍的に進むことが期待されます。
本研究成果は、2022年4月22日に、国際学術誌「Science」のオンライン版に掲載されました。
図:酸化物超伝導体Sr2RuO4におけるFFLO 状態のイメージ図。超伝導の強さが周期的に変化するスピン・スメクティック性の観測に初めて成功した。
【DOI】https://doi.org/10.1126/science.abb0332
K. KINJO, M. MANAGO, S. KITAGAWA, Z. Q. MAO, S. YONEZAWA, Y. MAENO, K. ISHIDA (2022). Superconducting spin smecticity evidencing the Fulde-Ferrell-Larkin-Ovchinnikov state in Sr₂RuO₄. Science, 376(6591), 397-400.