宮﨑牧人 白眉センター特定准教授、鈴木団 大阪大学講師、久保田寛顕 東京都健康安全研究センター主任研究員、早稲田大学の小川裕之氏(研究当時)、石渡信一 同名誉教授らの研究グループは、神経細胞の成熟に重要な細胞内の仕組みが、温度によって精密に制御されることを発見しました。
私たちの体に備わる温度センサーが2021年のノーベル医学・生理学賞の対象になった理由の1つとして、温度センサーが、細胞のある特定の要素(タンパク質)であることを見出したという点が挙げられていました。しかし、体の中で起きている化学反応(例えば食べ物の消化や代謝)や物理的な過程(例えば神経伝達物質の拡散)は一般に、温度に応じて変化します。温度変化がわずかなら、それぞれの反応もあまり大きくは変わりません。しかし「生命」は、それらの複雑な反応ネットワークです。温度が少し変化しただけで、ネットワーク全体の挙動が大規模に変化するといった可能性は無いのか、というアイデアの検証を本研究グループは続けてきました。
今回、本研究グループは、動物の胎児の神経細胞に存在し、細胞の中で力を出して細胞の形づくりに関わるタンパク質と、温度に応じた力の制御に着目しました。そして精製した3種類のタンパク質を用いて、細胞内の現象を人工的な環境下で再構成しました。一般にタンパク質は、精製すると熱に弱くなります。しかし本研究グループは、赤外レーザーを用いた素早く精密な温度操作技術を顕微鏡による計測技術と組み合わせることで、体温付近での実験に成功しました。その結果、37℃付近でのみ、力の制御が鋭敏になることを発見しました。母体の体温の精密な制御には、タンパク質が出す力を整え、神経系の正常な成熟を支える役割があることが示唆されます。また細胞に備わる様々な温度センサーの理解が進めば、ナノスケールの温度センサーを、人工的に作れるようになることが示唆されます。
本研究成果は、2021年11月9日に、国際学術誌「Nano Letters」のオンライン版に掲載されました。
【DOI】https://doi.org/10.1021/acs.nanolett.1c02955
【KURENAIアクセスURL】http://hdl.handle.net/2433/266182
Hiroaki Kubota, Hiroyuki Ogawa, Makito Miyazaki, Shuya Ishii, Kotaro Oyama, Yuki Kawamura, Shin’ichi Ishiwata, Madoka Suzuki (2021). Microscopic Temperature Control Reveals Cooperative Regulation of Actin–Myosin Interaction by Drebrin E. Nano Letters, 21(22), 9526-9533.