量子コンピューターのワイルドカードとなる粒子を解明

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 横井太一 理学研究科修士課程学生、馬斯嘯 同修士課程学生(研究当時)、笠原裕一 同准教授、笠原成 同特任准教授(現・岡山大学教授)、松田祐司 同教授、芝内孝禎 東京大学教授、求幸年 同教授、田中秀数 東京工業大学教授、栗田伸之 同助教、那須譲治 横浜国立大学准教授の研究グループは、ドイツのケルン大学と共同で、2次元的な平面構造をもつある種の磁性体において現れる「非可換エニオン」と呼ばれる粒子(正確には準粒子)の性質を解明しました。

 我々の住む3次元世界では、2つの同種の粒子を2回入れ替えると必ず元の状態に戻ってしまいます。これに対し非可換エニオン粒子は、2回入れ替えても元には戻らない(非可換)という奇妙な性質をもち(図中央)、トポロジカル量子コンピューターと呼ばれる環境ノイズに強い量子コンピューターの動作を可能にする基本粒子です。今回注目した物質はα-RuCl3(塩化ルテニウム)と呼ばれる蜂の巣状の平面構造をもつ磁性絶縁体で、非可換エニオン粒子が存在することを示唆する「半整数熱量子ホール効果」(図左)が観測されていました。非可換エニオンは、自身が反粒子と同一であるマヨラナ粒子で構成され、熱ホール効果の符号は、マヨラナ粒子の動きが右ひねりと左ひねりのメビウスの輪のどちらに対応するか、というようなトポロジーにより決まります。非可換エニオンの存在を決定的にするためにはそのトポロジーの詳細を明らかにする必要があります。

 本研究グループは、半整数熱量子ホール効果の符号が磁場の方向により逆転する現象を発見し、半整数熱量子ホール効果が現れる磁場方向を特定することで、非可換エニオン粒子のトポロジーを決定することに成功しました。本研究により明らかとなった非可換エニオン粒子のトポロジー(図右)は理論模型と良い一致を示し、非可換エニオン粒子が物質中に安定して存在することが明らかになりました。このことは、トポロジカル量子コンピューターを実現するうえでα-RuCl3が有力な候補物質であることを示しています。

 本研究成果は、2021年7月29日に、国際学術誌「Science」のにオンライン版に掲載されました。

本研究の概要図
図:本研究の概要図(画像提供:物理系VTuber固体量子)
研究者情報
書誌情報

【DOI】https://doi.org/10.1126/science.aay5551

T. Yokoi, S. Ma, Y. Kasahara, S. Kasahara, T. Shibauchi, N. Kurita, H. Tanaka, J. Nasu, Y. Motome, C. Hickey, S. Trebst, Y. Matsuda (2021). Half-integer quantized anomalous thermal Hall effect in the Kitaev material candidate α-RuCl₃. Science, 373(6554), 568-572.

メディア掲載情報

日刊工業新聞(8月5日 23面)に掲載されました。