日本チームのバーチャル宇宙の解析に米国の2チームが挑戦 -宇宙の根源的な謎に迫る精密宇宙論への確かな一歩-

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 西道啓博 基礎物理学研究所特定准教授(兼・東京大学客員科学研究員)、高田昌広 東京大学主任研究者、スタンフォード大学、ニューヨーク大学、欧州原子核研究機構、プリンストン高等研究所、中国科学技術大学の研究者らの研究グループは、コンピュータ上の仮想宇宙の銀河データを用いて、データ作成者と解析者を完全に分離した「宇宙論チャレンジ」を初めて行い、物理解析の手法で宇宙の誕生と進化を支配する宇宙論パラメータを正しく測定することができるか検証しました。

 日本チームは国立天文台のスーパーコンピュータ「アテルイII」を用いて、大規模かつ正確な宇宙の構造形成シミュレーションを実行しました。そして、得られた銀河の大域的空間分布パターンを特徴付ける統計量を、シミュレーションで使用された宇宙論パラメータや銀河の特徴に関する詳細情報は伏せた状態で、米国両海岸の2つの解析チームに引き渡し、両チームが宇宙論パラメータを独立に復元できるかテストを行いました。その結果、米側解析チームは、最も悪いものでも誤差1.3%の精度で、日本側が作成したバーチャル宇宙の情報を正しく復元しました。この結果は、これまでの宇宙論パラメータの決定精度と比較して1桁精度が向上したものになります。将来、宇宙論パラメータを更に精密に測定し、ダークマターやダークエネルギーの謎に迫るには、銀河大規模サーベイ観測のデータ解析に用いられる解析手法の精度を、解析の際に使用する計算法の提案者やデータ解析者自身とは独立に検証することが重要です。本研究は、宇宙論コミュニティ全体を巻き込んだ解析手法改善の新しい取り組みの第一歩と言えます。

 本研究成果は、2020年12月28日に、国際学術誌「Physical Review D」のオンライン版に掲載されました。

本研究で日本チームがチャレンジプログラムとして構築した模擬宇宙に広がる大規模構造(中央)を光で観測可能な領域に相当する体積(左)、実際の観測の中でも最大の銀河サーベイであるスローン・デジタル・スカイサーベイ(SDSS)が観測した体積(右)と比較したもの。
図:本研究で日本チームがチャレンジプログラムとして構築した模擬宇宙に広がる大規模構造(中央)を光で観測可能な領域に相当する体積(左)、実際の観測の中でも最大の銀河サーベイであるスローン・デジタル・スカイサーベイ(SDSS)が観測した体積(右)と比較したもの。(Credit: 西道啓博)
書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1103/PhysRevD.102.123541

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/262254

Takahiro Nishimichi, Guido D’Amico, Mikhail M. Ivanov, Leonardo Senatore, Marko Simonović, Masahiro Takada, Matias Zaldarriaga, and Pierre Zhang (2021). Blinded challenge for precision cosmology with large-scale structure: Results from effective field theory for the redshift-space galaxy power spectrum. Physical Review D, 102:123541.