ヒト膵臓細胞の増殖メカニズムを解明 -糖尿病治療に向けて前進-

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木村東 iPS細胞研究所研究員、長船健二 同教授らの研究グループは、siRNAを使ったスクリーニングによってWNT7Bというタンパク質がAT7867によって作られる膵前駆細胞の増殖因子であることを解明し、WNT7Bを用いることでヒトiPS細胞から膵前駆細胞を大量に作製することに成功しました。

さらに、AT7867がYY1という転写因子のリン酸化を抑えることによって、WNT7Bの生成を上昇させることと、WNT7Bが膵前駆細胞を増殖させる過程はβ-カテニンを介さない経路であることも突き止めました。

インスリンを分泌する膵β細胞をヒト多能性幹細胞(ES細胞およびiPS細胞)から作製し、皮下などに移植する再生医療(細胞療法)は、糖尿病の根治的な治療法の1つとして期待されています。しかし、実現に向けては膵臓のもととなる細胞である膵前駆細胞を効率よく安定して大量に作製する課題がありました。これまでの研究で、膵前駆細胞の増殖を促進する化合物としてAT7867が同定されていましたが(Kimura et al. , 2017)、膵臓の発生や増殖機構についてはわかっていないことが未だ多く、AT7867の作用をさらに詳しく調べる必要がありました。

膵前駆細胞が大量に作製されるしくみを解明した本研究成果は、将来、糖尿病治療に向けて必須となる細胞の安定供給の技術へと繋がることが期待されます。

本研究成果は、2020年10月30日に、国際学術誌「Cell Chemical Biology」のオンライン版に掲載されました。

図:本研究の概要図

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1016/j.chembiol.2020.08.018

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/261697

Azuma Kimura, Taro Toyoda, Mio Iwasaki, Ryusuke Hirama, Kenji Osafune (2020). Combined Omics Approaches Reveal the Roles of Non-canonical WNT7B Signaling and YY1 in the Proliferation of Human Pancreatic Progenitor Cells. Cell Chemical Biology, 27(12), 1561-1572.e7.

  • 産経新聞(10月30日 26面)および日刊工業新聞(10月30日 21面)に掲載されました。
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