ヒストン修飾の変化による脳の神経細胞分化の制御メカニズムを解明 -HP1γを欠損した神経幹細胞はニューロンへの分化傾向が強くなる-

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成瀬智恵 医学研究科 准教授、吉原亨 同特定助教、浅野雅秀 同教授らの研究グループは、ヘテロクロマチンプロテイン1(HP1)と呼ばれるタンパク質ファミリー分子のうち、HP1γを欠損したマウス神経幹細胞では、ニューロン特異的に発現する遺伝子の発現量が上昇し、ニューロンに分化しやすくなることを見出しました。

HP1には、遺伝子が使用されないときにヘテロクロマチンと呼ばれる凝集構造を形成して、遺伝子が読み取られないようにする(転写抑制)機能があります。これまでHP1γは、転写抑制の目印である、ヒストンH3の9番目のリジン(H3K9)のメチル化と密接に関係していると考えられてきました。本研究グループは、HP1γが別の転写抑制の目印である、ヒストンH3の27番目のリジン(H3K27)のメチル化の維持にも関与していることを明らかにしました。本研究により、HP1γは、メチル化H3K27の脱メチル化酵素であるJMJD3およびUTXがニューロン特異的な遺伝子に近づくのを妨げることにより、メチル化H3K27を維持することが示唆されました。

本研究成果は、神経幹細胞をニューロンに正常に分化させるための制御には、ヒストン修飾を正常に保つことが必須であることを示唆しており、脳や神経の再生医療などへの応用が考えられます。

本研究成果は、2020年1月21日に、国際学術誌「FASEB Journal」のオンライン版に掲載されました。

図:神経幹細胞の分化を誘導したところ、HP1γ欠損細胞ではアストロサイト(赤色)が少なく、ニューロンが多く見られた(緑色)。青色:細胞核。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1096/fj.201900139R

Chie Naruse, Kanae Abe, Toru Yoshihara, Tomoaki Kato, Takumi Nishiuchi, Masahide Asano (2020). Heterochromatin protein 1γ deficiency decreases histone H3K27 methylation in mouse neurosphere neuronal genes. The FASEB Journal, 34(3), 3956-3968.