小野輝男 化学研究所 教授、奥野尭也 同博士課程学生、Duck-Ho Kim 同研究員らの研究グループは、塚本新 日本大学 教授、Se Kwon Kim ミズーリ大学 助教授、Kyung-Jin Lee 高麗大学校 教授らと共同で、反強磁性的な磁化結合をもつフェリ磁性体の磁壁に対して、電流と磁化の相互作用であるスピン移行トルクが与える効果を実験および理論の両面から解明しました。
磁壁レーストラックメモリは、電流を流した際にはたらくスピン移行トルクによって磁壁の位置を制御する事を基本動作とする、次世代型磁気メモリとして期待されています。近年、高速動作可能な磁壁メモリを実現するうえで、反強磁性体が有力な材料候補として研究されています。しかし、反強磁性体は自発磁化を持たないことから外部磁場による磁化制御が困難なため、反強磁性体の磁壁に作用するスピン移行トルクを実験的に調べた報告はこれまでありませんでした。
本研究では、フェリ磁性合金ガドリニウム・鉄・コバルト(GdFeCo)の磁壁移動に対して、磁壁移動速度に占める非断熱スピン移行トルクの効果が大きいことを実証しました。本研究成果は、反強磁性体を利用した高速動作の磁壁メモリの実現へ向けた道筋となることが期待されます。
本研究成果は、2019年9月19日に、国際学術誌「Nature Electronics」のオンライン版に掲載されました。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41928-019-0303-5
Takaya Okuno, Duck-Ho Kim, Se-Hyeok Oh, Se Kwon Kim, Yuushou Hirata, Tomoe Nishimura, Woo Seung Ham, Yasuhiro Futakawa, Hiroki Yoshikawa, Arata Tsukamoto, Yaroslav Tserkovnyak, Yoichi Shiota, Takahiro Moriyama, Kab-Jin Kim, Kyung-Jin Lee & Teruo Ono (2019). Spin-transfer torques for domain wall motion in antiferromagnetically coupled ferrimagnets. Nature Electronics, 2(9), 389-393.