他者の怪我に対しチンパンジーが情動的に反応することを発見 -最新技術が明かす類人猿の注意と生理的反応-

ターゲット
公開日

佐藤侑太郎 野生動物研究センター ・日本学術振興会特別研究員らの研究グループは、チンパンジーが怪我を負った個体に注意を向けること、また他者の怪我に対して生理的反応を示すことを明らかにしました。

ヒトでは他者の怪我や痛みに直面すると、あたかも自分も痛みを感じているかのような感覚を覚えることがあります。またこのような共感的反応にともなって心拍や体温などの生理状態が変化することが知られています。チンパンジーについては他の個体の怪我に関心をもつことが過去の観察から示唆されてきました。

本研究ではまず、怪我を負った個体の写真と怪我のない個体の写真を並べた画像ペアを見ているときのチンパンジーの視線を計測することによって、チンパンジーが怪我を負った個体の写真の方をより長く見ることがわかりました。さらに、チンパンジーが情動的反応を示すのかを検証するため赤外線サーモグラフィを用いてチンパンジーの皮膚温の変化を調べました。その結果、ヒト実験者の怪我を再現した場面でチンパンジーの鼻先の皮膚温が低下したことがわかりました。

本研究成果は、ヒトと進化的にもっとも近い動物であるチンパンジーが、他者の怪我に注意を向けることや情動的に反応することを示唆し、ヒトの共感能力がどのように進化してきたのかを理解するうえでも重要な発見です。

本研究成果は、2019年6月10日に、国際学術誌「Animal Cognition」のオンライン版に掲載されました。

図:赤外線サーモグラフィで撮影したチンパンジーの画像例。色の違いは温度の違いを表す。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1007/s10071-019-01276-z

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/277927

Yutaro Sato, Satoshi Hirata, Fumihiro Kano (2019). Spontaneous attention and psycho-physiological responses to others’ injury in chimpanzees. Animal Cognition, 22(5), 807-823.