今見考志 薬学研究科特定研究員、石濱泰 同教授の研究グループは、ドイツのマックスデリュブリック分子医学センターと共同で、これまで単にタンパク質を合成する翻訳装置として考えられていたリボソームが、自身も翻訳制御に積極的に関わることを明らかにしました。
本研究成果は、2018年9月14日に米国の国際学術誌「Molecular Cell」のオンライン版に掲載されました。
研究者からのコメント
リボソームは単純にタンパク質を合成するだけの「退屈な」分子機械とみなされていました。今回の研究を通じて、リボソームはタンパク質合成装置としての役割だけでなく、リン酸化修飾を受けることで翻訳制御因子になることがわかってきました。これまで我々が開発してきた技術(リン酸化ペプチド濃縮法、リボソーム分離法、プロテオーム定量法など)をうまく組み合わせることで、遺伝子発現制御という生物にとって最も重要な過程を新たな視点から捉えることができました。今後も技術開発を通じて新たな遺伝子発現の制御機構を明らかにしていきたいと思います。
概要
リボソームはmRNAの配列を基にタンパク質を翻訳する分子機械で、これまでは単純にタンパク質を合成するだけの静的な翻訳装置としてみなされてきました。
本研究は、生化学的分離法や質量分析法、RNAシーケンシング法を組み合わせることで、翻訳活性を有するリボソームに結合するタンパク質やリン酸化修飾を系統的に同定することに成功しました。さらに、リボソームタンパク質の一つであるRPL12/uL11のリン酸化が、細胞周期依存的に制御されること、有糸分裂期に発現しているmRNAを選択的に認識し翻訳することを明らかにしました。本研究により、ほ乳類の細胞でリン酸化リボソームが翻訳に関与することが初めて示されました。
本研究成果により、リボソームを介した新たな遺伝子発現制御の存在が明らかになりました。また、リボソームはリン酸化のみならずアセチル化、メチル化といった多数の修飾も受けることから、これらの修飾もリボソームの翻訳を制御している可能性があると考えられます。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.molcel.2018.08.019
Koshi Imami, Miha Milek, Boris Bogdanow, Tomoharu Yasuda, Nicolai Kastelic, Henrik Zauber, Yasushi Ishihama, Markus Landthaler, Matthias Selbach (2018). Phosphorylation of the Ribosomal Protein RPL12/uL11 Affects Translation during Mitosis. Molecular Cell, 72(1), 84-98.e9.