西野恒 情報学研究科教授は、佐藤いまり 国立情報学研究所教授らのグループと共同で、通常のカメラを可視光下で用いて、物体表層における光の伝搬過程を可視化する手法を世界に先駆けて開発しました。
本研究成果は、2018年9月8日より開催の国際会議「European Conference on Computer Vision」において発表されました。
研究者からのコメント
私たちの研究室では、知覚として「視る」ためのコンピュータビジョンの実現を目指しています。特に「人を視る」「物を視る」「よりよく視る」、すなわち、見た目に映された人の内面や考えを推し量るための視覚情報処理、物の見え方から手繰り得る、行動を起こすための環境や物体属性の推定、さらには今まで得難かった視覚情報を復元抽出するための技術の開発を、三つの柱として研究を進めています。本研究は物体表層の内部を普通のカメラで見られるようにするという点で画期的であり、今後の応用をさまざまな分野に渡って展開できるのではないかと考えています。
概要
光が伝わる様子を可視化できれば、光が生み出す情景を視覚情報から解析することが可能になります。しかし、光は極めて高速で伝搬するため、従来は高い時間分解能を持つ特殊なカメラで大局的な光の伝搬をとらえることができるのみで、物体表層のようなミクロなスケールでの光の伝播経路をとらえる手法はありませんでした。
本研究手法の特徴は、従来法のように光の伝搬を時間分解するのではなく、物体表面の外観そのものを、新たに導出した光源の照射方法を用いて、観察する光の伝搬距離を仮想的に制御することによって、その伝搬過程を復元することにあります。具体的には、リングライト(円環状の光源)の半径を変えつつ物体表面を撮像し、それぞれの半径に対応する画像同士の差分を取ることにより、光の伝搬距離がそれらの半径の差に限定された画像列を生成できることを示しました。
また、このようにして得た画像列が、物体表層内で光が拡散・散乱しつつ伝搬する様子を捉えていることを、果物や人間の皮膚を含めたさまざまな自然物体を用いて実証しました。さらに、これらの復元された伝搬画像から、物体表層内の異なる深さにおける色を特定できることを示しました。
本研究成果は、通常のカメラと光源を使って簡便に実装できることから、実用的な物体表層の解析手段として役立つと考えられます。表層構造解析などを通した危険物等の非破壊検査のみならず、人間の皮膚や内臓表面などの状態や病変を容易に可視化して解析できるため、医療や美容に幅広く応用することが期待できます。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1007/978-3-030-01252-6_37
Ko Nishino, Art Subpa-asa, Yuta Asano, Mihoko Shimano, Imari Sato (2018). Variable Ring Light Imaging: Capturing Transient Subsurface Scattering with an Ordinary Camera. Lecture Notes in Computer Science, 11215, 624-639.
- 日刊工業新聞(9月19日 30面)に掲載されました。
関連リンク
- Variable Ring Light Imaging Capturing Transient Subsurface Scattering with An Ordinary Camera(通常のカメラを用いた物体表層における光伝搬の可視化)
https://vimeo.com/288512052
- Computer Vision Laboratory(西野恒 研究室)
http://vision.ist.i.kyoto-u.ac.jp