遠藤政幸 理学研究科特定准教授(兼・物質ー細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)連携准教授)、杉山弘 同教授(兼・iCeMS連携PI)、ハンビン・マオ ケント州立大学教授らの研究グループは、DNAによってナノスケールの立体空間を作成し、その中に、DNA構造のひとつであるi-モチーフ構造やグアニン四重鎖構造を配置することで、これらの構造体が熱力学的に極めて安定化することを見出しました。さらに、その要因が空間内での水分子の物理的な性質に影響されていることを明らかにしました。
本研究成果は、2018年9月4日に米国の国際学術誌「米国科学アカデミー紀要」のオンライン版に掲載されました。
研究者からのコメント
生体中に存在する数ナノメートルの空間は、生体分子の安定性などの物理的性質を変えることが知られています。本研究では、この現象を解明するため、空間のサイズをシステマチックに変化させることで、その内部に置かれた分子が空間のサイズに依存して安定化され、空間内部の水分子の物性がその安定性に大きく影響を与えることが分かりました。空間という生体内の環境を使って、生物が高速かつ高効率で動作する原理の一端を解明できました。
概要
本研究グループは、先行研究で、DNAオリガミで作成した角筒状のナノスケール構造体(ナノケージ。ナノは10億分の1)に生体分子を閉じ込めると、熱力学的に安定化することを実験的に明らかにしていました。しかし、その現象を引き起こす要因については明らかではありませんでした。
本研究では、生体分子がほどけるときの水分子の影響に着目し、DNA構造のひとつである「i-モチーフ構造」をナノケージに入れ、i-モチーフ構造がほどけて1本鎖DNAになる現象(アンフォールディング)と、再びこのDNA構造に折り畳まれる現象(フォールディング)を再現しました。そして、i-モチーフ構造に機械的な力をかけてアンフォールディングした時の変位(DNA鎖の伸びの距離)と力を測定しました。その結果、酸性側のpH(水素イオン指数)ではナノケージがi-モチーフ構造の形成を助け、機械的な安定性を高めること、また、ナノケージのサイズによってi-モチーフ構造の機械的な安定性が変化し、より狭いケージ内でさらに安定性が増すことが分かりました。
さらに、i-モチーフ構造がアンフォールドするときの水分子の物理的な性質を調べたところ、空間の広さをナノケージで制限することで空間内部の水分子の活量が低下し、それがi-モチーフ構造の折り畳みを促進すること明らかにしました。本研究成果は、ナノスケール空間で生体分子が安定化するメカニズムを、水分子の物性の変化という観点から解明するものです。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】
https://doi.org/10.1073/pnas.1805939115
Sagun Jonchhe, Shankar Pandey, Tomoko Emura, Kumi Hidaka, Mohammad Akter Hossain, Prakash Shrestha, Hiroshi Sugiyama, Masayuki Endo, and Hanbin Mao (2018). Decreased water activity in nanoconfinement contributes to the folding of G-quadruplex and i-motif structures. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 115(38), 9539-9544.