村瀬葵 農学研究科修士課程学生(現・ウィーン国立音楽大学生)、藤田和生 文学研究科教授らの研究グループは、捕食者に出会った経験のあるカンザワハダニが、より卵を多く産める寄主植物を選びやすくなることを発見しました。本研究によって、捕食者の脅威を感じた経験が、動物の分散行動や分布に影響を与える可能性があることがわかりました。
本研究成果は、2018年5月30日に国際学術雑誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されました。
研究者からのコメント
ハダニは体長1ミリ以下ととても小さく、脳もほとんど発達していません。そんな彼らでも、学習能力をもち、捕食者との遭遇経験をその後の寄主植物選択=生涯計画に活かすことができるというのは、我々著者にとっても新鮮な驚きでした。私たちの周りには、小さくて目立たない、見逃してしまいそうな動物がたくさん暮らしています。ハダニも、道端の草木をよくよく観察すると、いたるところで見つけることができます。私たちのすぐ身の回りには、もっとたくさんの意外な動物の意外な能力が潜んでいるのかもしれません。
概要
カンザワハダニは、葉の表面に立体的な網を張り、葉の汁を吸って生活する植食性節足動物です。幅広い植物種に寄生でき、葉の劣化や捕食者の増加といった変化に応じて、歩行および風に乗った分散によって生存の危機を回避します。近年、捕食者に出会った経験が、捕食者がいないところでの動物の行動をどのように変えるかについての研究が注目を集めています。
本研究では、カンザワハダニを用いた室内実験によって、捕食者に出会った経験が、植食性節足動物の寄主植物の好みを変化させ、それに伴う分散行動の変化が生息域をも変化させうることをはじめて明らかにしました。本研究成果の知見は、あらゆる動物種に応用可能です。動物全体で普遍的に同じような現象が観察されるのか、さまざまな動物種での検証が期待されます。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41598-018-26757-y
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/232591
Aoi Murase, Kazuo Fujita (2018). Predator experience changes spider mites’ habitat choice even without current threat. Scientific Reports, 8, 8388.