劉莉 工学研究科特定准教授(現・大阪大学特任准教授)、小寺秀俊 同教授(現・理化学研究所理事)、于楽謙 同博士課程学生(現・テキサス大学研究員)、沖田圭介 iPS細胞研究所講師、湯超 北京大学教授らの研究グループは、 世界で初めてヒトiPS細胞から多能性能が高いサブタイプ細胞を単離・培養することに成功しました。分化指向性が揃った高品質なiPS細胞の提供につながる画期的な成果です。
本研究は、2018年6月29日に米国の科学誌「Stem Cell Reports」のオンライン版に掲載されました。
研究者からのコメント
私たちは、独創的なアイデアで、構築したシングルiPS細胞の単離・培養システムを用いて、従来のヒトiPS細胞から多能性能が高いサブタイプを樹立することに成功しました。
この技術を利用すれば、目的の細胞を分化誘導する前に、指向性の揃ったiPS細胞を選別・最適化することによって、ヒトiPS細胞の「適性診断」を行うことが可能になります。今後は再生医療の現場において、臨床グレードで、均一かつ高品質の初期化細胞を提供することが期待されます。
また、ゼラチンナノファイバーは幹細胞培養の基材として、多能性が高いiPS細胞の長期培養に適合性があることが解明されたので、今後は全能性iPS細胞(例えばナイーブ細胞)の長期培養への応用も期待されています。本研究は物質と細胞を融合して生まれた成果で、新たな複合領域分野への発展を目指しています。
概要
現在のiPS細胞作製技術では、得られるコロニーが単一クローンである保証はなく、由来の異なる細胞が共存する不均一な集団として存在する場合もあります。このような不均一なiPS細胞集団では各細胞の分化指向性にバラつきがあるため、目的細胞への分化効率が低い、誘導効率が不安定などの問題がありました。
本研究グループは、ゼラチンナノファイバー(GNF)技術とマイクロ加工技術を融合して、シングルヒトiPS細胞を単離・培養する基盤的なシステムを開発し、世界で初めてヒトiPS細胞から多能性能が高いサブタイプ細胞の単離と培養に成功しました。
本研究では、ヒトiPS細胞から、単層のMCoG細胞とドーム型のDCoG細胞という2種類の形態と分化能が異なるサブタイプ細胞を単離できました。この2種のサブタイプ細胞の分化能の差を調べたところ、多能性能が高いDCoG細胞では、内胚層と関係するマーカー遺伝子の発現が高く、MCoG細胞では、外・中胚層のマーカー遺伝子の発現が高いことが判明しました。今後このシングル細胞単離・培養システムにより、不均一な細胞集団から単一クローンを樹立し、それぞれ細胞固有の性質を生かして、分化指向性が揃った高品質なiPS細胞の提供の実現が期待されます。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.stemcr.2018.06.003
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/232589
Leqian Yu, Junjun Li, Jiayin Hong, Yasuhiro Takashima, Nanae Fujimoto, Minako Nakajima, Akihisa Yamamoto, Xiaofeng Dong, Yujiao Dang, Yu Hou, Wei Yang, Itsunari Minami, Keisuke Okita, Motomu Tanaka, Chunxiong Luo, Fuchou Tang, Yong Chen, Chao Tang, Hidetoshi Kotera, Li Liu (2018). Low Cell-Matrix Adhesion Reveals Two Subtypes of Human Pluripotent Stem Cells. Stem Cell Reports, 11(1), 142-156.
- 京都新聞(6月29日 26面)、日刊工業新聞(6月29日 29面)、日本経済新聞(6月29日 42面)および毎日新聞(6月29日 26面)に掲載されました。