柴田博史 iPS細胞研究所特別研究学生(現・岐阜大学医学部附属病院医員)、山田泰広 同教授(現・東京大学教授)らの研究グループは、膵臓がんが発生するメカニズムとして、遺伝子変異以外のメカニズムを解明しました。
本研究成果は、2018年5月25日に「Nature Communications」で公開されました。
研究者からのコメント
iPS細胞を作る際の技術を応用して、膵臓がんが発生する際に、遺伝子変異だけではなくエピジェネティックな変化も重要であることがわかりました。今後、更に研究を進めて、がんのメカニズムを明らかにしたいと思います。
本研究成果のポイント
- 初期化の最初の段階として分化細胞の特徴が失われる脱分化がある
- 膵臓がんの遺伝子変異に加えて部分的な初期化を起こすことで初めてがん化した
- 膵臓がんの発症には脱分化に伴うエピジェネティックな変化が重要
概要
体細胞からiPS細胞へと変化する初期化の過程では、遺伝子の変化を伴わないエピジェネティックな変化によって細胞の性質が大きく変化します。まず元の細胞で働いていた遺伝子の働きが弱くなる脱分化が起こり、更に初期化が進むと多能性を持つ細胞(iPS細胞)へと変化します。がん細胞が発生する際にも、脱分化に似た状態が生じていることが知られています。
本研究グループは、がんの原因となる代表的な遺伝子であるKrasやp53の変異によって誘導される膵臓がんを対象として、膵臓の細胞を部分的に初期化することで脱分化を起こし、がん発生に与える影響を検証しました。その結果、脱分化に伴うエピジェネティックな変化が膵臓がんの発生に重要な役割を果たしていることがわかりました。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41467-018-04449-5
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/231318ー
Hirofumi Shibata, Shingo Komura, Yosuke Yamada, Nao Sankoda, Akito Tanaka, Tomoyo Ukai, Mio Kabata, Satoko Sakurai, Bunya Kuze, Knut Woltjen, Hironori Haga, Yatsuji Ito, Yoshiya Kawaguchi, Takuya Yamamoto, Yasuhiro Yamada (2018). In vivo reprogramming drives Kras-induced cancer development. Nature Communications, 9, 2081.
- 京都新聞(5月26日 29面)、産経新聞(5月26日 30面)、日刊工業新聞(5月28日 28面)および読売新聞(5月31日夕刊 6面)に掲載されました。