藤井啓祐 理学研究科特定准教授、富田章久 北海道大学教授、福井浩介 同博士課程学生らの研究グループは、光を用いた量子コンピュータを、現在の技術レベルで実現させる方法を開発しました。
本研究成果は,2018年5月25日に、米国科学誌 「Physical Review X」に掲載されました。
研究者からのコメント
量子コンピュータは、従来のコンピュータにおけるビットに対応する「量子ビット」をスタート地点としてその実装が検討されてきました。一方で、従来のコンピュータにおいては、電圧の値や電荷の量などアナログ値を離散化することでビットを実現しています。
本研究は、光を用いたアナログ量子状態を離散化したGKP量子ビットにおいて、その背景にあるアナログ量をうまく利用することで量子ビットに対するエラー耐性を大幅に向上させることができるという結果です。
量子ビットの背景にあるアナログな物理系の情報をうまく利用することで量子コンピュータの実現に貢献できる新たな方向性の研究であり、実験的実証や今後の展開を期待しています。
本研究成果のポイント
- 光を用いた量子コンピュータの実現には, 量子ビットの誤り率を非常に小さくする必要があった。
- 量子ビットの誤り耐性を最大限引き出す方法とノイズに強い量子ビットの配列法により, 現在の技術レベルでも量子コンピュータを実現できる方法を開発。
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光を用いた量子コンピュータの現実的な構成法を世界で初めて明らかにした先駆的な研究であり,この分野の発展をさらに加速させることが期待される。
概要
量子コンピュータは,量子力学の重ね合わせの原理を利用することで,素因数分解,分子の性質・化学反応のシミュレーションなどを現在のコンピュータより遙かに高速に処理できることが期待されており,世界各国で盛んに研究・開発されています。本研究グループでは、大規模な量子計算の実現に有利であるとされる光に注目してきましたが、光を用いた量子計算の実現には,370兆回の演算当り1回以下の誤りしか許されず,現在の技術レベルでは達成が非常に困難でした。
しかし、今回、本研究グループは,誤りの発生を極限まで抑えながら量子ビットを配列する方法を新たに提案しました。また,アナログ量子誤り訂正法と量子ビットの配列法を組み合わせることで,約1万回の演算当り1回以下の誤りであれば量子計算が実現できるという、これまでの約100億倍誤りに強い方法を新たに開発しました。
この誤り率は現在の技術レベルでも到達可能なことから,光を用いた量子コンピュータの実現に大きく近づくことができました。本研究は,光を用いた量子コンピュータの現実的な構成法を世界で初めて明らかにした先駆的な研究であり,この分野の発展をさらに加速させることが期待されます。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1103/PhysRevX.8.021054
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/231252
Kosuke Fukui, Akihisa Tomita, Atsushi Okamoto, Keisuke Fujii (2018). High-Threshold Fault-Tolerant Quantum Computation with Analog Quantum Error Correction. Physical Review X, 8(2), 021054.