白川久志 薬学研究科准教授、宮之原遵 同博士課程学生、 金子周司 同教授 らの研究グループは、マウスを使って慢性的に脳の血流量を低下させた病態モデルを作成し、認知機能障害の発生メカニズムを調べたところ、脳内の免疫細胞であるミクログリアが病態時に観察される脳内炎症の増悪と認知機能障害に関与しており、そのミクログリアに発現するイオンチャネルであるTRPM2(トリップ エム2)を抑制すると、その症状が抑えられることを明らかにしました。
本研究成果は、2018年3月9日午前7時に米国の科学誌「Journal of Neuroscience」に掲載されました。
研究者からのコメント
脳血流の軽度な低下は、短期的には睡眠不足や強いストレスを受けたりすると起こりますが、長期的には年をとったり脳梗塞や心不全にかかったり、継続的なストレスを受けたりすることで起こります。さらに喫煙や高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病による動脈硬化でも慢性的に脳血流が低下することが指摘されていますし、これらは全て認知症の危険因子です。
今回、軽度な脳血流の低下であっても長く続くことで、脳内炎症と白質傷害を主に介して、軽度な認知機能障害になることがわかりましたので、今後はこのような疾患メカニズムが、他の中枢神経疾患で起きている可能性を検討するとともに、生体が本来持っているはずの防御機構についても調べていきたいと思っています。
概要
慢性的に脳の血流量が低下し、酸素や栄養が脳へ十分に行き届かなくなることは認知機能障害の発症・病態増悪因子の一つであることが指摘されてきましたが、その病態メカニズムは詳しくは分かっていませんでした。
本研究グループがマウスを用いて、慢性的かつ軽度に脳の血流量を低下させた病態モデル(慢性脳低灌流モデル)を作成し詳しく調べたところ、脳の免疫細胞であるミクログリアの活性化や、中枢神経系の過剰な炎症(脳内炎症)、神経軸索と髄鞘が密集している白質部分の傷害が観察され、認知機能障害が起こっていることがわかりました。
さらに、ミクログリアの活性化を抑えることのできる抗生物質ミノサイクリンの投与や、ミクログリア細胞機能の発揮に重要と考えられるCa 2+ 透過性陽イオンチャネルであるTRPM2チャネルの遺伝子を欠損することで、その症状が抑えられることをはじめて明らかにしました。慢性脳低灌流状態から認知機能障害に至る病態メカニズムは、アルツハイマー病や血管性認知症をはじめとする認知症はもちろんのこと、他の中枢神経変性疾患や精神疾患にも共通していることが示されており、これらの神経疾患に対する新たな創薬標的として今後の基礎研究に大きく寄与するものと期待されます。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.2451-17.2018
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/241611
Jun Miyanohara, Masashi Kakae, Kazuki Nagayasu, Takayuki Nakagawa, Yasuo Mori, Ken Arai, Hisashi Shirakawa and Shuji Kaneko (2018). TRPM2 channel aggravates CNS inflammation and cognitive impairment via activation of microglia in chronic cerebral hypoperfusion. Journal of Neuroscience, 38(14), 3520-3533.
- 京都新聞(3月10日 28面)、日刊工業新聞(3月12日 17面)および読売新聞(4月20日 21面)に掲載されました。