増永慎一郎 原子炉実験所教授、佐藤達彦 日本原子力研究開発機構研究主幹、熊田博明 筑波大学准教授、浜田信行 電力中央研究所主任研究員らの研究グループは、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)の薬剤によるがん細胞殺傷効果の違いを理論的に予測する新たな数理モデルを開発しました。
本研究成果は、2018年1月17日に英国の科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。
研究者からのコメント
開発した数理モデルを応用すれば、新しいホウ素薬剤の治療効果の予測や、患者個人の症状に合わせたより最適な放射線治療計画の提案が可能となります。また、α線源内用療法など、他の放射線治療法への応用も期待されています。
本研究成果のポイント
- ホウ素薬剤によるがん細胞殺傷効果の違いをマウス実験で定量的に評価
- 効果の違いが薬剤濃度の細胞内及び細胞間不均一性に起因することを解明
- 薬剤濃度の不均一性からがん細胞殺傷効果を予測する数理モデルを開発
- 開発した数理モデルは、BNCTのみならず放射線治療全般の最適化に有望
概要
BNCTは、あらかじめホウ素薬剤を投与したがん患者に中性子ビームを照射し、ホウ素と中性子の核反応で生じるα粒子やLiイオンを用いてがん細胞を殺傷する治療方法です。同じ放射線量でも投与する薬剤の種類や濃度によってがん細胞殺傷能力(治療効果)が異なりますが、その詳細な依存性やメカニズムはまだ解明されていませんでした。
そこで本研究グループは、2種類のホウ素薬剤を様々な濃度で投与した担がんマウスに中性子を照射し、その治療効果を定量的に調べました。また、原子力機構が中心となって開発した放射線挙動解析コードを用いた細胞レベルの放射線量解析により、動物実験で示唆された薬剤による治療効果の違いが、薬剤が細胞内及び細胞間で不均一に分布する効果に起因することを明らかにしました。この解析結果に基づき、薬剤濃度の不均一性を指標として治療効果を予測する新たな数理モデルを開発し、動物実験結果を精度よく再現することに成功しました。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41598-017-18871-0
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/229015
Tatsuhiko Sato, Shin-ichiro Masunaga, Hiroaki Kumada & Nobuyuki Hamada (2018). Microdosimetric Modeling of Biological Effectiveness for Boron Neutron Capture Therapy Considering Intra- and Intercellular Heterogeneity in 10B Distribution. Scientific Reports, 8, 988.