田島知之 理学研究科教務補佐員、井上英治 東邦大学講師らの研究グループは、ボルネオ島での観察とDNA分析から、ボルネオオランウータンの劣位雄が子どもを残すことを明らかにしました。オランウータンの社会構造の解明に貢献することが期待されます。
本研究成果は、2018年2月1日午前0時に霊長類学の国際学術誌「Primates」にオンライン掲載されました。
研究者からのコメント
人に近い動物でありながら、オランウータンの生態にはまだ多くの謎が残されています。オランウータンは群れを作らない上、7年に1頭しか子どもを産まないことから、親子鑑定が難しい対象です。劣位雄が繁殖していることを明らかにした本研究は、オランウータンの雄に見られる一時的な成長停止が、戦略として進化したとする考えを支持するものです。
概要
オランウータンの優位雄は90キロを超える巨体と「フランジ」と呼ばれる顔のヒダを特徴として持ちますが、その他の劣位雄にはフランジはなく、体格もメスと同程度しかありません。この立場の弱い「アンフランジ雄」は一時的に体の成長を止めながら、交尾のチャンスをうかがっていると言われます。もし近在のフランジ雄が死んだりしていなくなると、アンフランジ雄がフランジを発達させて次の優位雄へと「変身」します。
本研究グループは今回、アンフランジ雄状態でも子を残しているのかどうか、糞からDNAを抽出して親子鑑定をして調べました。その結果、アンフランジ雄がわずかに子どもを残していること、それが初産の子であったことを明らかにしました。初産の子の父親になることは、子を残すチャンスの限られたアンフランジ雄にとっての繁殖戦術の結果である可能性があります。これまで別種のスマトラオランウータンからわずかに報告がありましたが、ボルネオオランウータンでは今回が初めての報告です。今後、まだ謎の多いアンフランジ雄の生態と、オランウータンの社会構造の解明に貢献することが期待されます。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1007/s10329-017-0648-1
Tomoyuki Tajima, Titol P. Malim, Eiji Inoue (2018). Reproductive success of two male morphs in a free-ranging population of Bornean orangutans. Primates, 59(2), 127-133.