佐藤-カールトン綾 生命科学研究科研究員、中村-田淵千紘 同技術補佐員、シャテラン・ステファン 同技術補佐員、内野智樹 同技術補佐員、カールトン・ピーター 同准教授らの研究グループは、卵子や精子などの生殖細胞を生み出す減数分裂では、SYP-1と呼ばれるタンパク質のリン酸化修飾が染色体DNAの分離に重要であり、このメカニズムこそが正常な卵子の産出を保障することを線虫の実験で明らかにしました。
本研究成果は、2017年12月8日に米国の学術誌「Journal of Cell Biology」に掲載されました。
研究者からのコメント
今回私たちは、モデル生物である線虫の卵母細胞を用いて、SYP-1タンパク質がリン酸化されることが、正常な卵子の形成に重要であることを示しました。リン酸化されたSYP-1タンパク質は、卵母細胞が減数分裂期に入ってすぐの時期には、染色体上全体に広がっていますが、途中から染色体軸の片側のみに偏って集積します。この非対称な分布が、後の染色体の分裂に重要であることが今回の研究からわかりました。今後は、このリン酸化SYP-1の分布の偏りが、どのように誘導されているのか?という謎を解決したいと考えています。
概要
卵子や精子を生み出す細胞分裂は減数分裂と呼ばれ、母方由来と父方由来の相同染色体と姉妹染色分体を二回連続して分離することにより、細胞中のDNAの量を半分にする特殊な細胞分裂です。減数分裂を制御するタンパク質に不具合が生じると、正常に染色体を分離することができなくなり、正常な卵子や精子を作ることができません。人間の場合、減数分裂における不具合は不妊、流産などの問題や、染色体数異常につながります。減数分裂で染色体を正しく分離するためには、減数分裂前期、分離に必要なタンパク質群を、分離面に集積させておくことが必須ですが、この分子メカニズムには未知の部分が多く残されています。
線虫のSYP-1タンパク質は、哺乳類における減数分裂タンパク質SYCPと同様の働きを、線虫の生殖細胞において担っていると考えられています。このタンパク質は、減数分裂前期に相同染色体同士の間に構築されるシナプトネマ複合体の中央部に位置するタンパク質です。様々なモデル生物において、シナプトネマ複合体タンパク質群の多くが減数分裂前期にリン酸化修飾を受けることが知られていましたが、その生物学的意義には謎が多く残されていました。
本研究グループは、線虫でSYP-1タンパク質がリン酸化修飾を受ける箇所を確かめ、さらにリン酸化修飾が受けられないSYP-1変異株を作製し、減数分裂においてどのような影響が現れるか調べました。また、リン酸化修飾を受けたSYP-1タンパク質のみを特異的に検出する抗体を作製し、リン酸型SYP-1の細胞核内での挙動を解析しました。その結果、減数分裂前期においてリン酸型SYP-1が染色体分離面に集積すること、この集積が染色体分離を引き起こす下流のタンパク質を分離面に誘導することを明らかにしました。本研究を通して、染色体の正常な分離を保障するタンパク質の反応連鎖を明らかにすることができました。
図:二つの線虫卵母細胞核
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1083/jcb.201707161
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/228869
Aya Sato-Carlton, Chihiro Nakamura-Tabuchi, Stephane Kazuki Chartrand, Tomoki Uchino, Peter Mark Carlton (2017). Phosphorylation of the synaptonemal complex protein SYP-1 promotes meiotic chromosome segregation. The Journal of Cell Biology, 217(2), 555-570.