生きたマウス体内のAMPK活性を可視化 -糖尿病薬や運動が効果を及ぼす細胞が明らかに-

ターゲット
公開日

松田道行 生命科学研究科教授らの研究グループは、細胞内エネルギーが不足すると活性化するAMP活性化プロテインキナーゼ(AMP-activated protein kinase、AMPK)という分子の活性を生体内でモニターするため、AMPKのFRETバイオセンサー(蛍光共鳴エネルギー移動という現象を利用し、分子がどれくらい働いているかをモニターする手法)を発現する遺伝子改変マウスを開発しました。その結果、生きたマウス体内で糖尿病薬や運動によるAMPKの活性化を捉えることに成功しました。

本研究成果は、2017年11月29日午前2時に米国の学術誌「Cell Reports」に掲載されました。

研究者からのコメント

代謝疾患だけでなくガンや老化といった研究分野で、AMPK活性を検出するFRETマウスが画期的なツールとなる可能性があります。例えば、疾患の原因となる組織・細胞の特定や、新規AMPK活性化剤が効果的に働く臓器発見につながると期待されます。また今後は、自由に活動するマウスのAMPK活性を捉えることができるような技術を開発したいと考えています。

概要

AMPKは細胞内のエネルギーが不足すると活性化し、代謝を制御する分子です。2型糖尿病や肥満といった代謝疾患に加え、近年ではガンや老化の調節因子としてAMPKが注目されています。実際に糖尿病薬であるメトホルミンや運動によってAMPKが活性化されることが知られていました。しかしこれらの薬や運動の効果がどの組織のどの細胞を標的としているのかは不明でした。

本研究グループは、AMPK活性を生きた細胞内でリアルタイムに検出するため、AMPKのFRETバイオセンサーを発現する遺伝子改変マウスを開発しました。その結果、糖尿病薬であるメトホルミンは肝臓でAMPKを顕著に活性化させる一方で、骨格筋ではその効果はほとんどみられないことが分かりました。また、AMPの疑似体であるAICARは骨格筋でAMPKをよく活性化させることが明らかとなりました。さらにマウスを運動させたあとに骨格筋でのAMPK活性を観察し、遅筋に比べて速筋で有意にAMPKが活性化されることが分かりました。

本研究の成果として、世界に先駆けて生体内のAMPK活性をモニターする技術を開発し、AMPK活性が組織ごと細胞ごとに異なることを見出しました。さらに糖尿病薬や運動の効果がどの組織のどの細胞を標的としているかが明らかになりました。

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1016/j.celrep.2017.10.113

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/228126

Yumi Konagaya, Kenta Terai, Yusuke Hirao, Kanako Takakura, Masamichi Imajo, Yuji Kamioka, Norio Sasaoka, Akira Kakizuka, Kenta Sumiyama, Tomoichiro Asano, Michiyuki Matsuda(2017). A Highly Sensitive FRET Biosensor for AMPK Exhibits Heterogeneous AMPK Responses among Cells and Organs. Cell Reports, 21(9), 2628–2638.