※ 図の記載内容を更新しました。(2020年5月21日)
原田博司 情報学研究科教授、加藤数衞 株式会社日立国際電気技師長らの研究グループは、 「モノ」のインターネット(Internet of Things:IoT)データ収集・制御用広域系Wi-RAN(数km~数10kmの範囲をカバーする地域無線ネットワーク)システム用無線機による無線多段中継伝送を用い、3段・分岐有という構成で総中継距離75.0km、単区間最大距離27.8kmでの5拠点同時中継データ伝送試験に成功しました。
研究者からのコメント
社会リスクを低減する超ビッグデータプラットフォームを構築するためには、ローカルな環境において各種センサー、メーター、モニタに代表される数千のIoTデバイスから創出された超ビッグデータを効率的に処理エンジンに伝送する必要性があります。現在まで開発してきた無線多段中継無線機は、数千のIoTデバイスからの超ビッグデータを数kmの範囲内で収集し、かつそのデータを自動的に多段中継により数十km先の処理エンジンに伝送可能とするものです。しかし、目標としていた数十kmの通信エリアに関してはまだ実証をされていませんでした。本試験の成功により、1段あたりの最大伝送距離を27.8kmまで伝送することができ、また3段の中継を行うことにより総中継距離を70km以上にすることができました。この通信システムの実現により、離島、へき地等に対し、医療の確保の向上、福祉の増進、IoTを利用した災害対策等が期待されます。
本研究成果のポイント
- 屋外環境において長距離多段中継による5拠点同時中継データ伝送に成功(総中継距離75.0km、単区間最大距離27.8km)
- 超高能率無線スマートライフラインネットワークとの連動による医療情報収集システムの実証
- 防災・減災危機管理システムとの連動による被災現場の動画像情報収集を実証
概要
本研究グループは、現在まで1台の無線機で実現する中継段数無制限のスケーラブルな多段中継機能の開発を行ってきました。しかし実フィールド環境では、単区間最大距離が6km程度で1段の中継を行う2地点同時映像伝送の基礎実験の実証にとどまり、多段中継の機能についての十分な実証は行われておらず、また、IoT用の実システムへの応用についても行われていませんでした。
今回、より長距離の多段中継回線を容易に構築するために、無線機の電源投入のみで、自動的に通信可能な無線機をセンシングし接続していくことにより、順次中継エリアを拡大していく、詳細設定不要な自動多段中継ネットワーク構築機能を開発しました。さらに、開発したWi-RAN同時中継回線を用いて、Wi-SUN(国際無線通信規格IEEE 802.15.4g規格をベースにエネルギーマネージメント、防災、工場等の各種アプリケーションを実現するために他のオープンな国際標準規格と融合させ、製造メーカー間で相互接続可能にした国際無線通信規格)無線機を用いた無線ネットワークにより血圧・脈波等の生体計測データを取得する医療データ収集システムと、災害時における被災現場の情報収集としての防災・減災危機管理システムの異システム同時運用試験に成功しました。
今回の試験結果を受け、実システムにおけるWi-RANマルチホップを利用したIoTシステムの普及促進が期待されます。
図:広域データ伝送試験における無線局設置場所
(出典:Geospatial Information Authority of Japan「(国土地理院の地理院地図(電子国土Web)「京都市付近」)を利用して無線局の情報位置、局間の距離を記載」)