Altmann Christian 医学研究科准教授らの研究グループは、互いに矛盾する聴覚情報が大脳皮質においてどのように処理されているのかを調べました。その結果、脳内では二つの手がかりが統合されて処理されているわけではなく、別々の状態のまま扱われていることが示唆されました。
本研究成果は、2017年7月27日に米国の科学誌「NeuroImage」に掲載されました。
研究者からのコメント
今回のEEG(脳波)計測からは、大脳皮質において二つの情報が分かれて表現されていることが分かりましたが、そのそれぞれが、具体的にどのような形で処理されているかを理解するには、より詳しい研究が必要です。この仕組みを解明することは、効果的な聴覚情報提示ディスプレイの開発や、脳機能障害の診断にも役立つかもしれません。
概要
互いに矛盾する情報が同時に入力されたとき、脳はどのように扱うのか?その時々で、一方の情報を採用して解釈し、他方の情報を抑制するのが、脳がとる一つの解決策です。二つの異なる情報をなんとか統合するのも、また別の解決策です。目隠し鬼ごっこのように聴覚のみで音源の位置や運動を判断する場合、人間の聴覚は主に2種類の手がかりを使います。
音源が右に動くとき、音波は左耳より右耳に早く到来し(時間差手がかり)、同時に頭による遮蔽効果によって右耳により大きく音が入ります(レベル差手がかり)。通常は、この二つの手がかりは矛盾することなく、私たちはそれによって音源の位置をある程度正確に判断することができます。しかし、実験的操作によって、互いに矛盾する方向に二つの手がかりを聞かせると、音像は、一般に右でも左でもなく、正面に知覚されます。脳内では多段階での情報処理が行われており、二つの手がかりに関する聴覚情報がどのように扱われているか、いまだに解明されていません。
本研究グループは、比較的高次の聴覚情報処理が行われる人の大脳皮質において、こういった矛盾した手がかりを別々の状態のまま扱っているのか、統合されて処理されているのかを調べました。実験では、先ほどの例のように、一方の手がかりは右方向へ、もう一方の手がかりは左方向への移動に対応するように変化させました。このような音は、音像の中心が正面に静止しているように知覚されます。健常な実験参加者の頭皮に電極を貼付し、この刺激を呈示しながら参加者の負担にならないようEEGを計測しました。
大脳で知覚に対応するような処理が行われているならば、矛盾した手がかりが呈示された場合には、静止音源に対応するような反応が生じ、整合する手がかり(両者が同方向に変化)の場合には、移動音源に対応する反応が生ずるはずです。しかし、矛盾した手がかりを呈示した場合でも、整合した手がかりを呈示した場合でも、基本的に同様な反応が得られました。つまり、大脳皮質のような比較的高次の聴覚情報処理が行われている段階においても、二つの手がかりは別々に扱われていることを示唆しています。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1016/j.neuroimage.2017.07.055
Christian F. Altmann, Ryuhei Ueda, Benoit Bucher, Shigeto Furukawa, Kentaro Ono, Makio Kashino, Tatsuya Mima, Hidenao Fukuyama (2017). Trading of dynamic interaural time and level difference cues and its effect on the auditory motion-onset response measured with electroencephalography. NeuroImage, 159, 185-194.