阪口翔太 人間・環境学研究科助教らの研究グループは、通常は秋に開花する植物であるアキノキリンソウの開花時期を、北海道の各地で調べました。その結果、初夏に開花する早咲きのアキノキリンソウ系統を発見しました。そこで早咲きと遅咲きの系統の間で遺伝的な違いを調べたところ、蛇紋岩地帯という特殊な土壌地帯の早咲き系統だけが遺伝的な組成を急速に変化させ、新しい種へと進化していることが分かりました。本研究から、開花時期の違いにより時間的に隔離された系統の中から、新しい種が生まれつつあることが実証されました。
本研究成果は、2017年8月21日に英国の植物学雑誌「New Phytologist」に掲載されました。
研究者からのコメント
今後の研究としては、そもそもどうして蛇紋岩地帯や高山帯という環境においてアキノキリンソウが早く開花するようになったのかを明らかにする必要があります。さらに、分子進化という観点からは、アキノキリンソウの種分化に関わっている遺伝子を特定することで、DNA分子レベルから植物の進化メカニズムを解明したいと考えています。
概要
新しい植物が生まれる初期段階では、同じ種が別々の場所に隔離されることが重要な条件です。しかし、同じ種であっても異なる時期に花を咲かせる系統が存在することも知られています。この場合には系統同士が「時間的に隔離」されることで、地理的隔離がなくても新しい種が進化するのではないかと予想されてきました。
本研究グループは、通常は秋に開花する植物であるアキノキリンソウに着目し、北海道の各地で開花時期を調べました。その結果、(1)蛇紋岩地帯という特殊な土壌地帯と(2)高山帯から、初夏に開花する早咲きのアキノキリンソウ系統を発見しました。そこで遺伝学的な分析によって、早咲きと遅咲きの系統の間で遺伝的な違いを調べたところ、蛇紋岩地帯の早咲き系統だけが遺伝的な組成を急速に変化させ、新しい種へと進化していることが分かりました。高山帯にも同じように早咲きの系統がありましたが、こちらについては標高の低い場所のアキノキリンソウと遺伝的な違いはほとんど見られませんでした。
本研究から、開花時期の違いにより時間的に隔離された系統の中から、新しい種が生まれつつあることが実証されました。また、地質の境界のように環境が急激に変化する場合と、標高の違いのように徐々に環境が変わる場合を比べると、前者の条件の方が新しい種が生まれやすいことも分かりました。従来、植物の進化には別々の場所に系統が隔離されることが重要だと考えられてきましたが、本研究成果からは、開花時期が異なれば近接した場所であっても新しい種が進化することが示されました。これらの成果は、植物の基本的な進化要因の解明に大きく貢献するものです。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1111/nph.14744
Shota Sakaguchi, Kenji Horie, Naoko Ishikawa, Atsushi J. Nagano, Masaki Yasugi, Hiroshi Kudoh and Motomi Ito (2017). Simultaneous evaluation of the effects of geographic, environmental and temporal isolation in ecotypic populations of Solidago virgaurea. New Phytologist, 216(4), 1268-1280.
- 朝日新聞(10月20日夕刊 13面)に掲載されました。